要約

管理装置としての性格

ICP-2 は2001年6月4日に採択され、以来25年間、RIR の承認と運営の基礎文書であり続けた (https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/rir-governance-document-version-3/)。しかし、その手続規定は成熟したレジストリ体制の実態に比べて粗く、誰がどの条件で新規RIRを承認し、既存RIRの承認を取り消せるのかという「統治の核」が文書として明確に定まっていなかった。RIR Governance Document はこの空白を埋めることを目的に策定され、承認(recognition)、運営(operation)、承認取り消し(derecognition)の三つの局面を一つの文書に統合する (https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/rir-governance-document-version-3-summary-of-differences-and-rationale-for-changes/)。

承認の条件

Version 3 の第3.1条および第3.7条は、新規RIRの承認がピアRIRの3分の2以上の多数決によることを定める (https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/rir-governance-document-version-3/; https://innova.lacnic.net/innovaportal/file/7655/1/rir-governance-document-version-3-4.pdf)。承認の決定は ICANN を通じて行われ、単独のRIRが承認権を握る構造ではなく、レジストリ共同体が集団で管理する設計である。これは、新規参加者の入口が既存メンバーの合意に依存するという、共同体型統治の典型的な緊張を抱える。

承認取り消し:リハビリ優先

第6.1条、第6.2条、第6.3条は、承認取り消しの手続を定め、第6.7条(c)および第6.8条はその効果を規定する (https://innova.lacnic.net/innovaportal/file/7655/1/rir-governance-document-version-3-4.pdf; https://www.nro.net/wp-content/uploads/RIR-Governance-Document-3.4-ASO-AC-Final-Draft-7-5-26.pdf)。v3 の特徴は、不履行が確認された場合でも、まず是正措置(リハビリテーション)の機会を与える設計にしたことである。承認取り消しは最終手段であり、直ちに番号資源の管理権限を失うことにつながらない。ただし、リハビリが失敗した場合の終局手段としての承認取り消しは残り、その発動には3分の2の多数決を要する。

全会一致から3分の2多数決へ

ICP-2 の枠組みを引き継いだ v2 では、承認取り消しを含む重要決定に全会一致を要求していた (https://www.nro.net/wp-content/uploads/RIR-Governance-Document-v2-FINAL.pdf)。v3 はこれを3分の2多数決へ緩和した。この変更の意味は大きい。全会一致は事実上の否決権(パクタ・サンクンタ型の保護)を各RIRに与えるが、3分の2多数決は、一つのRIRが共同体の決定を単独で阻止できないことを意味する。策定過程の説明文書は、この緩和が「機能不全に陥ったRIRへの対処可能性」を高めるためだとする (https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/rir-governance-document-version-3-summary-of-differences-and-rationale-for-changes/; https://www.nro.net/wp-content/uploads/Draft-v3-Changes-and-Rationale-240826b.pdf)。

メンバーの発議権

v3 は、RIRのメンバー(会員)に独立した発議権を認める (https://www.nro.net/wp-content/uploads/RIR-Governance-Document-3.4-ASO-AC-Final-Draft-7-5-26.pdf)。すなわち、管理機関が動かない場合でも、一定要件を満たすメンバーが手続の開始を求められる。これは、RIR内部の説明責任メカニズムを外部に開く最初の制度化であり、番号資源コミュニティが自らのレジストリの適法性を問う実務的な入口となる。

採択の現状:まだ拘束力はない

ASO AC(アドレス支持機構Address Supporting OrganizationのAddress Council)は2026年7月5日付の最終ドラフトを経て、2026年7月28日に推奨ドラフトをNRO EC(Executive Council)へ提出した (https://www.nro.net/wp-content/uploads/RIR-Governance-Document-3.4-ASO-AC-Final-Draft-7-5-26.pdf; https://aso.icann.org/recommended-draft-rir-governance-document-rationale-report-and-next-steps/)。NRO EC は2026年Q2に第2版の状況報告書を出した後 (https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/process-for-the-review-of-icp-2-and-timeline/)、ICP-2 の見直し手続の時間軸に沿って進めている (https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/faq/)。採択は2026年Q4に予定されているが、2026年9月28日時点で承認・採択はまだ行われておらず、Version 3 は推奨ドラフトのまま、RIR に対する法的拘束力を持たない (https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/rir-governance-document-version-3/; https://www.nro.net/wp-content/uploads/RIR-Governance-Document-250414-version.pdf)。

証拠の限界と不確実性

本稿の分析は、NRO と ASO が公開しているドラフト文書、その差分説明、NRO EC の状況報告に依拠する。これらは文書そのものであり、策定過程における非公開の議論や、採択時点での最終修正は反映されない。また、メンバー発議権の具体的な行使要件(定足数、通知期間、異議手続)は、最終採択版の条文によって確認する必要がある。