要約

  • ライブ映像を載せた平面が仮想の部屋を動き、位置や向きによって声の聞こえ方が変わった。
  • 視聴する範囲を外れた相手の配信要求を外す一方、通常のクライアントとの互換性を保った。

背を向けた相手の映像を、コンピューターは受け取り続ける。1996年のCU-SeeMe VRには、そんな気の利いた準備があった。人が振り向くほうが、映像の流れをつなぎ直すより速いからだ。

Jefferson HanとBrian SmithのCornellの論文は、歩き回れる仮想の部屋を使ったデスクトップ会議の試作を説明している。研究室の論文一覧ではACM Multimedia ’96の仕事に位置づけられる。参加者のライブ映像は薄い平面に貼られ、部屋の中を滑るように移動した。よくしゃべる展示パネルが集まったような光景である。

声を聞きに、近づいていく

方向キーや画面の操作部で動き、地図で位置を確かめる。近い相手の声は大きく、離れると小さくなる。左右のチャンネルは相手の位置に対応し、話し手が向いている方向も音に影響する。どこへ行くかが、誰の話に耳を傾けるかに結びついていた。

長い話から少し離れることもできた。ただし相手も移動できる。廊下を歩きながら延々と話す、あの場面まで会議ソフトにやって来た。

移動は通信にも関わる。一定の視聴半径より外にいる参加者について、クライアントはリフレクターへの音声・映像ストリームの要求を取り下げた。通信量と復号の仕事を減らす仕組みである。

近くの人は、振り向くために残す

半径の内側なら、相手が背後や視野の外にいても、こちらに背を向けていても、要求を保った。著者たちの理由は明快だった。視点の旋回に、配信の再開を待たせたくない。

振り向くことと遠ざかることは、会話では似た気分を表せる。受信側はその二つに別の処理を割り当てた。近くの相手を備えておく小さな余裕が、次の視線を滑らかにした。

通常のCU-SeeMeとも接続できた。試作は従来のリフレクターをそのまま使い、位置を追加のデータとして送る。通常のクライアントは位置情報を読み飛ばす。VR側では、そうした参加者の映像を固定位置の回転する多面体の柱に配置した。新しい部屋には、以前のソフトで来た人の居場所もあった。

部屋らしさに、どこまで付き合うか

論文には、四人で輪になる例が出てくる。正面の人はよく見えても、左右の顔は斜めになったり見えなくなったりする。画面なら残る三人を横一列に並べることもできる。部屋の形と話しやすさのどちらを優先するか、という問いだ。

利用者の試験はまだ限られ、偶然の出会いを促す効果は今後の研究課題だった。一方、動く試作はすでに、部屋を再現することで生まれる選択を見せていた。現実の部屋に忠実なら、不便な席までついてくる。ついてくるものには、話し足りない同僚もいた。