要約
- 熊本の第2工場が目指す2028年の3ナノ量産は、チップを作る工程の予定だ。完成品の納期には、その後の接続、組み立て、検査も関わる。
- TSMCは後工程の供給不足の一部を認め、米国でインターポーザーを調達する契約を結んだ。新しい部材供給と、製造経路全体の完成は別である。
熊本で先端半導体を作れるようになれば、AI向けの供給問題は一段落するのか。TSMCが10月15日の決算説明会で示したのは、日本の第2工場で3ナノ製品を2028年に量産する計画だった。重要な前進だが、これはウエハーを作る工程の予定である。計算用のチップができても、それだけでサーバーに組み込めるアクセラレーターにはならない。
その後にはメモリーなどの部品と接続し、組み立て、検査する工程がある。こちらの準備が追いつかなければ、前の工程を増やしても納品までの道のりは短くならない。
興味深いのは、同じTSMCが米国でも2028年を見据えた手配を進めていることだ。GlobalFoundriesが10月8日に発表した契約は20億ドル規模、当初の期間は5年間。ニューヨーク州マルタでシリコンインターポーザーを製造し、2028年上半期に量産の立ち上げを始める予定だ。買うのは完成したAIチップではない。チップ同士をつなぐための部材である。
「包む」だけではないパッケージ
AIアクセラレーターでは、演算用のチップとメモリーの間で大量のデータをやり取りする。部品を近くに置けば済むわけではない。細かな配線を形成し、速度や消費電力などの条件を満たす接続を作る必要がある。先端パッケージングは、完成したチップを保護する箱というより、製品の性能を成り立たせる仕事だ。
TSMCのCoWoSの説明を見ると、その中身にも違いがある。CoWoS-Sはシリコンインターポーザーを使う。CoWoS-Rはポリマーと銅による再配線層を使い、CoWoS-Lは再配線層に局所的なシリコン接続などを組み合わせる。同じCoWoSという名前でも、すべてが一種類の部材、一種類の製品ではない。
この違いは生産量を読む際にも効いてくる。月何枚のウエハーを扱えるかという数字から、完成するアクセラレーターの台数を直接求めることはできない。パッケージの大きさ、設計、歩留まり、製品構成によって変わるからだ。
TSMC自身も供給上の制約に言及している。10月15日の説明会でC.C. Weiは、GlobalFoundriesとの契約を説明する中で後工程の供給の一部が不足していると述べた。「制約があるかもしれない」という外部の推測からは一歩進んだ。ただし、何台の納品が何日遅れるか、どの顧客が影響を受けるかまで明らかになったわけではない。
工場名より、工程と時期
台湾では、TSMCの現在の製造拠点紹介に、2025年に嘉義と台南の先端パッケージング能力を拡大したとある。古い建設発表だけを見て「計画しか分からない」とするのは、もう正確ではない。一方で、この説明から拠点ごとの認定済み製品の生産量までは読めない。
日本については、8月7日のDIGITIMESの記事の公開部分が、熊本の3ナノ化と日本での先端パッケージングなどの取り組みに触れている。本文は有料であり、ここで確認できたのは紹介部分までだ。3ナノの2028年量産計画には、その後の10月の会社説明を使える。
米国マルタの予定は、さらに別の工程である。インターポーザーの供給が増えれば選択肢は広がるが、後に続く組み立てや検査まで米国内でそろったという発表ではない。契約額20億ドルも、工場への設備投資額や完成品の数量と読み替えることはできない。
「台湾で能力拡大」「日本で量産予定」「米国で新契約」。地図上に並べると一つの供給網が完成しそうに見える。実際には、各地点で何を作り、その先をどこにつなぐかを確かめなければならない。熊本で作ったチップが必ず太平洋を渡るとも、国内だけで完成するとも、これらの資料だけでは決められない。
好決算が教えてくれないこと
2026年第3四半期の売上高は467億2,000万ドルだった。従来予想の446億〜458億ドルを上回り、粗利益率は66.4%、営業利益率は58.7%に達した。第4四半期は売上高523億〜543億ドル、粗利益率65〜67%、営業利益率56.5〜58.5%を見込む。
10月時点の年間設備投資予算は600億〜640億ドル。7月の報道にある520億〜560億ドルは以前の予算であり、現在の数字ではない。ただ、投資総額が増えたことと、特定のパッケージを特定の月に使えることは別の話だ。
第3四半期には7ナノ以下がウエハー売上高の79%を占め、高性能計算向けは全体売上高の68%を占めた。分母の違う二つの比率は事業の姿を示しているが、完成パッケージの個数を示してはいない。
そこを埋めるために、外部の能力予測が使われる。TechTimesの7月11日記事は、CoWoSの月産能力を2024年末約3万5,000枚、2025年末約7万5,000枚、2026年末12万5,000〜13万枚と記し、TrendForceに帰属させている。
ところが、そこからリンクされた6月15日のTrendForce Newsの記事は、別の新聞報道を引用し、2026年のTSMC分を月12万〜14万枚、外部の組み立て・検査企業分を5万〜6万枚とする。ニュース部門は調査部門から独立しているとの説明もある。7月記事の過去からの数列を、そのまま確認できるページではなかった。
どちらかを会社の確定値として採用したり、二つを平均して精度が上がったことにしたりはできない。TSMC単体か、協力会社込みか。実績か、予測か。数量の横に付いていた条件を落とすと、数字は残っても意味が変わる。
前払いで手に入るのは何か
2025年のForm 20-Fには、顧客が特定の工場生産能力を確保するために前払いを行い、条件や合意に応じて返金または売掛金との相殺を行う契約が記されている。これは資金を伴う予約の実例だ。ただし、特定顧客のパッケージング枠、解約違約金、完成品の納期保証を示すものではない。
同じ資料では、2025年の最大顧客が売上高の19%、2番目が17%、上位10社が78%を占める。顧客集中の度合いは分かるが、この比率からパッケージングの優先順位は分からない。
サーバー会社やデータセンター事業者にとって重要なのは、その先に自分たちの約束があることだ。電力の契約、工事の日程、顧客への納品日。必要な部品や工程がそろわなければ、これらの調整が難しくなる可能性がある。特定企業に実損が出たという話ではなく、計画上の依存関係の話である。
熊本の工場の進展を追う価値は大きい。その意味を納期までつなげるには、工場の出口で追跡を終えないことだ。
資料について
以前引用した嘉義の発表リンクは残しているが、今回その本文は取得できなかった。2025年の能力拡大は現在の製造拠点紹介に基づく。年次報告書一覧とSECの提出書類一覧も引き続き参照先とする。顧客比率と前払いについては、一覧の存在から推測せず、TSMCが公開する2025年のForm 20-Fの記述を用いた。
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