要約
- European Commission は9月9日、European Innovation Act の Regulation 案と、規制サンドボックスに関する Council Recommendation 案を別々に提出した。いずれも未採択である。
- COM(2026) 567 の説明文は、サンドボックスの定義と原則を Act の範囲から外し、Recommendation 案へ移したと明記する。TFEU 288条上、Recommendation に拘束力はない。
- 提案は、サンドボックス参加を恒久的な規制免除や規制認可の代替経路と見なしてはならないとする。EU二次法からの逸脱には、該当するEU法令側の根拠が必要だ。
- 越境サンドボックスには、各主管当局の役割と責任、適用法、行政上の取決めを定める合意が要る。権限の証拠は名称ではなく、この連鎖にある。
「Innovation Act」と「サンドボックス」は一つの法案ではない
9月9日のEuropean Commission の発表は、イノベーションを育てる一つの政策パッケージとして二つの提案を紹介した。広報だけを読めば、European Innovation Act がEU全域に広い実験特例を設けるようにも見える。しかし、条文の入れ物を確認すると違う姿が現れる。
COM(2026) 567 final は Regulation の提案であり、通常立法手続に付される。しかも、その説明覚書は、規制サンドボックスの定義と原則を Act から削除し、Council Recommendation の提案へ移したと記録している。
移された先が COM(2026) 568 final である。根拠はTFEU 292条と173条3項。現時点では European Commission の提案であって、Council of the European Union が採択した文書ではない。採択後も形式の差は残る。TFEU 288条は、Regulation を全面的に拘束し直接適用されるものとし、Recommendation には拘束力がないと定める。
提案の説明も、この限界を隠していない。EUの規制権限を拡張せず、加盟国に法的拘束のある約束を課さない。加盟国は既存のEU法と自国事情を踏まえ、実施方法を決める。共通原則は行政実務をそろえ得るが、共通の許可証ではない。
箱の中に入るのは実験であって、法令ではない
提案の定義では、規制サンドボックスは、限られた期間、管理された環境で、単独または複数の主管当局の監督下において革新的な解決策を試し、証拠に基づく規制学習を生み出す枠組みである。期間、環境、監督、学習という四つの制限が、単なる「規制を軽くする制度」との違いをつくる。
提案はさらに、参加を規制要件からの恒久免除、あるいはEUで規制認可を取る別経路と考えてはならないと明記した。終了報告が標準化や適合性評価、国内の市場承認に役立つことはあり得る。だが、役立つ資料と認可そのものは同一ではない。
実験条件には、目的、範囲、認める試験、最長期間または地理的制限、リスク評価、公共利益や基本権を守る措置、評価方法、重大事故の報告、延長・変更・停止・終了の条件が含まれる。参加条件も、責任、知的財産、データ保護、プライバシー、秘密情報、監視、報告、退出戦略まで扱う。監督付きで試せることと、市場で提供できることの間には、なお法的な距離がある。
例外を可能にする条文は別に必要だ
実務上の核心は、derogation をどこから得るかである。国内法が既存要件からの逸脱を設ける場合、それは明示的で、範囲が明確で、正当化されなければならない。EU二次法から逸脱する場合は、適用されるEU法令がその可能性を認めているときに限る、と提案は述べる。
したがって、確認順序は決まっている。まず本来の義務を特定する。次に例外を認める法的根拠を示す。そのうえで主管当局と個別の決定を特定し、最後にサンドボックス計画が許容された行為の境界を描く。良いサンドボックス運営を勧める文書だけでは、基礎法にない免除を作れない。
AI ActやInteroperable Europe Act、Cyber Resilience Act、Net-Zero Industry Act には、それぞれの分野に即した制度が既にある。今回の提案自身も、該当する現行EU法を適用するよう加盟国に求める。共通原則が各分野の法体系を上書きするわけではない。
国境を越えると、権限表がもう一枚増える
Recommendation 案は越境サンドボックスを促す。しかし、一国での参加承認が他国で自動承認されるとは書いていない。関係する主管当局は、実験を許す条件、設置・運営・監督・監視・終了に関する各当局の役割と責任、適用される法令と行政上の取決めを最低限含む合意を結ぶべきだとする。
必要なのは具体的な権限表である。申請を受けるのは誰か。データ利用や製品安全を監督するのは誰か。事故報告を受け、停止を命じ、終了を判断するのは誰か。どの条文が例外を許すのか。「越境」という形容だけでは、そのどれも決まらない。
申請は透明かつ非差別的に審査するのが原則だが、無条件の開放ではない。国際約束に従い、客観的理由があれば、加盟国はEU市民やEU設立法人に参加を限定し、EUの中小企業や革新的企業を優先し、必要な研究開発をEU内で行うよう求め得る。手続の公平と参加資格の無限定は別物だ。
成果より先に、何が許されたかを残す
提案は、加盟国が結果と教訓を分析し、必要なら国内規制への反映を検討すること、参加者の請求に応じて主管当局が退出報告を出すこと、秘密や安全上の利益を守りつつ設置と成果の情報を公開することを勧める。こうした記録があれば、実験が規則改正、規格、適合性評価、承認手続のどこに影響したかを追える。
同時に、提案に存在しないものも明瞭になる。EU共通の申請窓口、合法化される行為の一般リスト、修了者の万能パスポート、退出報告から認可への自動変換はない。これは別々の行政機関が共通の問いを使うための接続仕様に近い。
そこで公開記録を「サンドボックス権限票」として整理できる。根拠法、例外条項、主管当局、参加者、認めた活動、期間と地域、保障措置、責任、停止・退出条件、越境合意、成果報告を一列につなぐ。これは本稿の編集提案であり、既存の法的義務ではない。名称が実際の権限より大きく見えるのを防ぐための方法である。
情報源
- European Innovation Act 案 COM(2026) 567 final
- 規制サンドボックスの Council Recommendation 案 COM(2026) 568 final
- TFEU 統合版
- European Commission — European Innovation Act
- European Commission — EUのイノベーション成長計画
- AI Act 統合版
- Interoperable Europe Act
- European Commission のサンドボックス等に関するガイダンス
- Heng Lu — The Policy Mirror
- Heng Lu — Running-Code Primacy
- Heng Lu — Reality, Not Advocacy
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