要約
- 第3版の第6条は、RIRの承認取り消しを「いかなるRIR」「対象RIRの会員の25%または2,000会員のいずれか少ない方」「ICANN」の三者だけが書面で発案でき、発案には理由と第4.1条の具体的違反条項の特定を要すると定める。
- ICANNが承認取り消しを決定できるのは、対象RIRを除くRIRの3分の2以上が支持した場合に限られ、第6.6条と第6.7条は第3版で新設された。
- 最初の草案(2025年第1・四半期)のタイトルは「Recognition, Maintenance, and Derecognition」であり、第2ラウンドで「Operation」へ変更された理由は、ARIN 56のASO AC資料が「文書の運用要件の性質をよりよく表すため」と説明している。
- 2026年9月30日時点で、この文書はASO ACが2026年7月28日にNRO ECへ引き渡した推奨ドラフトであり、承認・採択は2026年第4四半期に予定されている(NRO, タイムライン)。
手続きの出発点:材料的不適合と修復の推定
第6.1条は、RIRが第4.1条のすべての要件を引き続き実質的に満たさず、相当な修復機会を与えられてもなお実質的に不適合である場合に限り、承認取り消し手続きが開始されうると規定する。第6.2条はさらに一歩進み、不適合のRIRを修復へ導くことへの推定を明示する。ICANNはRIRらとRehabilitation Plan(修復計画)を作成し、対象RIRには最終決定の前に相当な是正機会が与えられる。つまりこの文書の設計思想は、承認取り消しを罰ではなく最後の手段として位置づけている(NRO, Version 3)。
発案者と証明責任の配置
第6.3条によれば、承認取り消しの提案は書面で行われ、(1) 任意のRIR、(2) 対象RIRの総会員の25%以上または2,000会員のいずれか少ない方で構成される会員グループ(各法人格を1回として計算)、(3) ICANN、のいずれかが提出できる。有効な提案は理由を述べ、第4.1条のうち違反が主張される具体条項を特定しなければならない。第6.4条は、他のRIRとICANNが提案受領の通知を公表し、対象RIRに書面回答の機会を与えることを義務づける。
利益公開を伴う同業審査
第6.5条では、対象RIRを除く各RIRが独立に提案を評価し、ICANNへ理由付きの「Derecognition Assessment(承認取り消し評価)」を提供する。評価者は実際の、潜在的な、または知覚された利益——家族関係や金銭関係を含む——を開示しなければならない。これは、承認取り消しが同業レジストリ間の権力闘争の道具として使われないための防衛線である。
ICANN審査と3分の2の分母
第6.6条と第6.7条は第3版で新設された。ICANNは提案、回答、評価を公表し(RIRと協議の上で機密情報を黒塗りできる)、照会を行い、RIRに評価の再考を求めることができる。修復要件が適用された場合は、修復計画の期間経過後に第6.5条・第6.7条の審査がやり直される。最終決定はICANNが行うが、対象RIRを除くRIRの3分の2の支持がなければ承認できない。承認時には理由付きのNotice of Decisionと、Transition Plan(移行計画)を含むNotice of Pending Derecognitionが出される(NRO, 変更概要)。
第6.8条は承認取り消しの効果を定める。RIRサービスは後継者または暫定主体(例えばTemporary Emergency Operator)へ移管され、取り消されたRIRはRIRサービスの提供を中止し、NRO会員資格と意思決定権限を失う。第7条は改正にICANNとRIRの全会一致を要求し、一時的緊急継続手配中または承認取り消し提案が係属中は改正を禁止する。ICP-2に存在しなかった新義務には3年の猶予期間が与えられ、少なくとも5年ごとの定期見直しが義務づけられる(ASO/ICANN)。
タイトルの静かな変更:「Maintenance」から「Operation」へ
最初の草案(2025年第1・四半期から第2・四半期)のタイトルは「Governance Document for the Recognition, Maintenance, and Derecognition of Regional Internet Registries」だった。第2ラウンド改訂草案(2025年第3・四半期)で「Operation」に変わった(NRO, タイムライン)。ARIN 56でのASO AC更新資料は理由を明示する。「Operation」は文書の運用要件の性質をよりよく表す、とされる。同じ資料は、承認取り消し提案の最低要件、書面回答の機会、ICANNによる決定理由の公表、会員25%または2,000会員の発案閾値を変更点として列挙している(ARIN 56資料)。
この語の変更は体裁的ではない。「Maintenance(維持)」はレジストリの所有権を維持管理する枠組みを、「Operation(運用)」は継続的な運用適合を基準とする枠組みを示唆する。レジストリの正統性が「誰がレジストリを保有しているか」から「レジストリが要件を運用上満たし続けているか」へ移ることを、起草者自身が文書の表紙に刻んだと読める。
手続きの現在位置
NRO ECは2026年7月28日、ASO AC(すなわちNRO Number Council)が作業を完了し、文書の責任がNRO ECへ移管したと発表した。承認と採択は2026年第4四半期に予定されており、手続きはNRO ECとICANNが定める(NRO EC発表)。第3版は2025年8月28日から11月7日までのRIR協議とICANNパブリックコメント、モンテビデオ作業部会、ICANN 85(ムンバイ、2026年3月)、ICANN 86(セビリア、2026年6月)の最終作業部会のフィードバックを反映している。
分母の争点
BTWの先行報道が指摘したように、公表された変更概要には評価分母の一細部が含まれておらず、3分の2の閾値は対象RIRを除外して計算される(BTW)。一見些細なこの除外が実務上重要である。5つのRIR体制では、対象RIRを除く4つのRIRのうち3つ以上が支持しなければ承認取り消しは成立しない。会員25%の発案権は、対象RIR内部の会員が外部の同業審査を呼び起こしうる初めての制度化された経路でもある。
結論としての限界
2026年9月30日時点で、この文書は推奨ドラフトである。NROはHTML版を協議用と位置づけ、PDF版を正式版としているため、条項の正確な文言はPDFの確認を要する。承認・採択の手続き自体がまだNRO ECとICANNによって確定していない。第6条の機械論が現実の抑制装置になるかどうかは、このドラフトが採択されて初めて検証可能になる。
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