要約
- 英国はIntellectual Property Enterprise Court(IPEC)に独立した料率決定ルートを設けない。一方、既存訴訟内の早期評価と、IPOの任意意見サービスの実現可能性を検討する。
- いずれも、それ自体で世界共通のFRAND料率を拘束的に決める仕組みではない。IPOサービスの設置は未決定で、政府回答には現行規則と異なる条番号が記されている。
英国政府は、標準必須特許(SEP)のライセンス紛争で最初の評価を前倒ししつつ、最終料率を決める新たな機関は作らない。10月13日公表の協議回答は、Intellectual Property Enterprise Court(IPEC)に独立したRate Determination Trackを設ける案を退けた。その代わり、既存訴訟の中での早期評価と、UK Intellectual Property Office(IPO)による別の意見サービスを検討する。情報を早く出して交渉の不確実性を減らしながら、拘束力を持つ判断は裁判所に残す設計だ。
SEPは技術標準を実装するために必要な技術を対象とする特許で、FRAND(公正、合理的かつ非差別的)条件がライセンスの枠組みとなる。ただし紛争は単一の数字だけでは決まらない。証拠、評価手法、秘密保持、料率と他の訴訟争点の関係が絡むことがある。料率だけを切り離す迅速な手続きが、和解を早め、結果への信頼を高めるとは限らない。
協議は2025年7月15日から10月7日まで行われ、47問に対して特許権者、実装企業、中小企業、大企業、法律家、研究者、業界団体などから93件の回答があった。政府は、FRAND紛争の迅速化と低コスト化には広く賛同があった一方、IPECの専用ルートには合意がなかったと説明する。また、回答は意見の幅を示すもので、単一の代表的な立場を示すものではないと明記した。93件という数は参加の記録であり、制度設計への委任投票ではない。
見送りの理由は実務上の難しさだ。料率の争点を他の紛争から分離しにくく、FRAND評価には複雑な証拠や方法論が必要となり、新設ルートが期待どおりの時間短縮につながらない可能性もある。速度と費用の削減を優先すれば、結果の質や業界の信頼を損ねる懸念も示された。中小企業は手頃で簡素な手続きを求めた一方、裁判所を使う仕組み自体が負担になるとの声もあった。専用ルートを作らない判断は、アクセスの問題が解消したことを意味しない。
裁判所の案は訴訟提起後に使う。政府は司法関係者と、既存のイングランド・ウェールズの訴訟にEarly Neutral Evaluation(ENE)型の早期評価を組み込めるか話し合う。検討項目にはPractice Directionの試行、適切な事件での訴訟停止、ENEまたは別の裁判外紛争解決への付託、建設的に参加しない当事者への費用上の扱いが含まれる。裁判官の評価は早期かつ非拘束的で、合意に至らなければ訴訟は続けられる。
政府回答には条文番号の食い違いがある。既存のENE権限をCivil Procedure Rules(CPR)3.1(2)(m)と記したが、2026年10月1日現在の公式規則ではENEの文言は3.1(2)(p)に置かれている。2024年10月1日に発効した改正で、裁判所が代替的な紛争解決を命じる段落が別に追加され、旧(m)のENE規定が(p)に繰り下がった。現行規則も、和解を助けるENEを明示的に認めている。古い引用で権限が失われたわけではないが、実施資料は現行番号に直す必要がある。
IPO案は別の段階にある。任意かつ非拘束的なFRAND意見サービスを設ける実現可能性と設計を調べる。交渉初期に、提示された条件が妥当なFRANDの幅に入るかを示すことを想定するが、設置するかどうかはまだ決まっていない。実現可能と判断されれば、産業界や技術専門家と設計を進めて試行する意向で、法改正が必要になる可能性もある。このサービスは最終責任、特許の有効性や侵害を決めず、世界的に拘束力を持つ料率も定めない。
その他の措置も限定的だ。権利者による標準関連特許情報の任意提供を検討するが、IPOが必要性を検証する制度ではない。政府は訴前の情報交換とライセンス指針を整え、既存の紛争解決手段への案内を改善する。IPOによる特許必要性審査サービスは設けず、差止命令の利用可能性も当面変更しない。英国市場への参入を体系的に妨げたり、製品撤退を招いたりするとの十分な証拠はなかったと政府は説明した。
企業にとって今回の発表は、進行中のライセンスに適用される規則の変更ではなく、次の政策作業の開始だ。早期意見は情報格差を減らす可能性があるものの、価値は費用、参加しやすさ、秘密保持、そして非拘束の評価を各社がどう扱うかに左右される。裁判所のルートは交渉を前倒しできても、中小企業に訴訟費用を求めるかもしれない。今後の焦点は、助言的な評価が最終判断と混同されず、実際に使える手続きへ育つかどうかだ。
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