要約
- RIPEアドレス政策作業部会は2015年4月、二人の共同議長が毎年交互に退任し、会議前に候補を募る選任手続きを採択した。退任する本人も再立候補できる。
- 2003年から議長を務めたGert Doeringが最初の対象となった。彼は再び立候補し、5月のRIPE 70で異議の記録なく再任された。席を一度開いたうえで同じ人を選ぶ手続きだった。
- 議長選任のコンセンサスには遠隔参加者も加われる。一方、合意が成立しない場合の秘密投票と不信任投票は、現地にいる人に限られた。Doeringの再任では投票は行われていない。
辞めないという噂の訂正
RIPE 69の議事録は、2014年11月の会議でDoeringが自分の退任説に触れ、当面は議長を辞めないと述べたことを記す。そのまま共同議長のSander Steffannに選任手続きの議題を渡した。Randy Bushは、議長選びを複雑にしすぎていると指摘し、前へ進めるよう促した。Steffannは新たな文面を作ってメーリングリストに出すと答えた。
この場面には、長く続く役職が抱える困りごとが詰まっている。本人が「辞めません」と説明しなければならないほど、去就は個人の話題になっていた。部会が必要としていたのは、特定の人物について噂を流す方法ではなく、誰が座っていても席を定期的に開ける方法だった。議長の仕事を評価する機会が予定に組み込まれれば、毎回の人事を危機として演出する必要は薄れる。
RIPE NCCの公式略歴によると、Doeringがアドレス政策作業部会の議長になったのは2003年。2015年にはおよそ12年が経過していた。長年の議論を知る人は貴重だ。同時に、経験の長さだけでは現在の部会の意思は読めない。新しい規則は経験を残しつつ、他の候補に名乗り出る日を与えた。
議長が下す厄介な判断
そもそも議長の席に誰が座るかが重要なのは、議題の読み上げより難しい仕事があるからだ。アドレス政策の提案には、賛成、反対、修正案、運用上の懸念が寄せられる。議長は、残る反対をどう扱い、どの段階で粗い合意に達したと判断するかを説明しなければならない。
RIPE 65の議事録では、Doeringが政策討議について、会議の場で決定が完結するわけではないと説明している。共同議長は会場の声を聞いて提案の方向をつかむ。議論は公開メーリングリストに載り、政策上の合意はそこで積み重ねられる。旅費を払って現場に来られる人だけが討議の全体ではない、という実務的な線引きである。
翌年のRIPE 67では、その判断が具体的な提案に使われた。Doeringは、現在の文案にはリスト上で強い支持があり、なお反対者もいると説明した。反対を取り込みながら提案の核を保つ道はない、と共同議長は考え、粗い合意を適用して先へ進むと述べた。この政策提案への判断と、誰が議長を務めるかという後の議題は別々の決定だ。ただし前者を見ると、後者を曖昧な慣習に任せる代償が分かる。
同じRIPE 67でSteffannは、議長の任命と交代に手続きが要るか部会に問いかけた。議事録には多様な声が残る。Jan Zorzは、難しい判断を担う議長の信頼性には再選任の手続きが役立つと考えた。Lu Hengは現職を評価しつつ、選挙が新しい参加者の入口にもなると述べた。Hans Petter Holenは任期をずらし、二つの席を同時に替えない案を出した。Steffannは会議のたびに投票用紙を配るほどの官僚化を望まなかった。
争点は人柄の好き嫌いより、判断を託す仕組みだった。ある政策で異論が残っても、議長は前進を宣言できる。その議長が引き続き信頼されているか、部会側にも確かめる手段が必要になる。定期的に席を開けば、現職を支持することも、別の人を推すことも、同じ手続きの上で行える。
一か月前に空席を知らせる
Steffannが2015年3月21日にリストへ送った案は、その手段を具体化した。部会は可能な限り共同議長二人体制を保つ。毎年一人が退任し、翌年はもう一人の番になる。空席はRIPE会合の少なくとも一か月前にメーリングリストへ告知する。候補者は会合の前にリストで自己紹介する。元議長も立候補できる。
一か月の予告は地味だが、席を本当に開くための条件だ。会議中に「ほかに候補は」と尋ね、その日のうちに決めてしまえば、準備できるのは既にその場にいる人に偏る。事前告知なら遠くの参加者も仕事量を考え、自分の考えを示し、質問を受けられる。空席という言葉が、知っている人だけの合図から公開の機会へ変わる。
選任の合意は部会の会合で探る。現地参加者も遠隔参加者も加わり、留任する共同議長が合意の成立を判断する。もし議長が一人もいなくなれば、RIPE Chairがその判断を担う。候補者、参加者、判断者を別々に置く設計である。自分の再任を自分で認定する形を避け、誰が結果を告げたか記録に残せる。
合意ができなければ、秘密投票に移る。投票できるのは会場に物理的にいる人で、RIPE NCCの職員が所定の方式で集計する。遠隔参加者には合意形成への声があるが、行き詰まった後の票はない。規則はさらに不信任の道も設けた。強い不満が話し合いで解けない場合、少なくとも会合の一週間前にリストで請求し、現地参加者の秘密投票で単純過半数なら議長は直ちに退く。
新しい議長を選ぶ投票と、現職を退かせる投票は別の用途を持つ。しかし、どちらも最終段階の投票権を現地参加者に絞る。この点は、遠隔参加を認める冒頭の文だけを読むと見落とす。2015年のDoering再任では、そもそも投票に進まなかった。手続きの境界は、将来の争いに備えて文章に残った。
椅子の行き先を試した五月
最終意見募集の後、共同議長は4月7日に選任手続きへの合意を宣言した。同月の公式メール記録には、最初の輪番がDoeringに当たるという連絡も残る。Steffannは「乱数生成器」を持ち出して順番の決め方を茶化した。Doeringは再立候補し、他の希望者も会議までに名乗り出られた。
五月、アムステルダムのRIPE 70議事録は、部会がDoeringを異議の記録なく再任したと記す。本人は、退いてすぐ戻るのは少しばかげていると笑いながら、ほかの人が立候補できる機会が大切だと話した。文面から分かるのは、募集と再任が行われたという事実だ。ここで秘密投票の規則は使われていない。
手続きを採択したこと、最初の退任者を決めたこと、その人を再任したことは、別々の段階だった。RIPE NCCの職員は投票があれば数える役であり、RIPE Chairの代行は共同議長がいない場合の備えだった。現実の五月の選択を行ったのはアドレス政策作業部会である。役割を分けると、一見すると「RIPEがGertを選んだ」という短い説明の中身が見えてくる。
結果が現職続投だったことには意味がある。毎年の確認が必ず交代を生む仕組みなら、経験を重んじる参加者は人事の話自体を嫌がるかもしれない。今回の規則は、現職の継続を支持する人にも、別の候補を推す人にも同じ入口を開いた。静かな再任も、公開された空席を経れば部会の現在の選択として記録できる。
変わったのは人ではなく入口
次の議長人事を点検するなら、まず一か月前の告知を探し、候補者の自己紹介を読み、会合で誰が発言できたかを確認する。次に、留任議長が何を根拠に合意を認めたかを追う。もし合意に至らなければ、誰が投票できたかも重要になる。2015年の規則は、こうした問いに対応する記録の場所を指定している。
政策提案をめぐるDoeringの2013年の判断は、議長の役目に避けられない摩擦を示した。支持が広くても反対は残る。誰かが前へ進む時点を示す必要がある。その人の職を定期的に開くことは、個々の政策判断を投票で置き換える行為ではない。次の難しい判断を誰に任せるか、参加者が再び選べるようにする行為だ。
最大の境界は遠隔参加の扱いに残った。議論には加われるのに、合意が崩れた後の秘密投票からは外れる。Doeringの初回再任ではこの境界を越えなかったからこそ、議事録は静かだ。将来、候補が競えば、規則のその一行が急に目立つはずである。
2014年、Doeringは退任説を否定した。2015年、彼は定められた日に席を空け、再び座った。人物の評価を噂に任せず、席が開く時点と選び方を文章にしたことが、この短い往復の実質だった。
会員向け解説
プロフィールの詳細
適切な会員レベルでログインすると、解説全文と出典メモをご覧いただけます。
Strategic Circle 限定
Strategic Circle
すべての読者に公開されています。参加してログインすると プロフィール解説 を閲覧できます。
Strategic Circle に参加Leadership Alliance 会員限定
Leadership Alliance
対象となる IP 資産の所有者・管理者向けです。ログインすると Leadership Alliance の解説を閲覧できます。
Leadership Alliance に参加





