要約
- KDPの米国向け公式例では、300ページの白黒ペーパーバックの定価を9.98ドルから9.99ドルにすると、1冊のロイヤリティが0.39ドルから1.39ドルに増える。印刷費4.60ドルは変わらない。
- 著者が設定する定価と、Amazonが読者に提示する販売価格は別のものだ。Amazonによる紙の本の値引きでも、ロイヤリティの基準は著者が登録した定価のままである。
本を安く売る方法は一つではない。著者が定価を下げることも、書店が自分の判断で値引くこともある。読者には似た光景でも、著者の取り分には別の出来事だ。
Amazon KDPの米国向けペーパーバックには、その違いを容赦なく見せる数字がある。9.98ドルと9.99ドル。差は1セントだが、公式の300ページの本の例では、著者のロイヤリティが1冊につき1ドル変わる。最後の数字を一つ直すだけで、文章を一行も直さずに起きる変化である。
値付けを小さな販促作業だと思っていると、この1セントを見落とす。実際には、作品から生まれた収入をどう分けるかを選ぶ操作になっている。
読者への値段と、著者への計算
KDPの価格説明では、著者は認められた範囲内で定価を設定し、Amazonは消費者向け販売価格や割引を決める。紙の本のロイヤリティは、著者が提出した定価を使って計算される。
したがって、Amazonの画面で安売りされているというだけで、著者のロイヤリティ率が下がったとは判断できない。一方、著者自身が定価を下げれば、計算の土台と適用される率を変える可能性がある。どちらも「値下げ」と呼ぶと、誰がどの数字を動かしたのかが消えてしまう。
販促を担当する人と資金を管理する人が話し合うなら、まずその主語をそろえたい。読者への販売条件を変えるのか。著者側の受取額を決める基準を変えるのか。同じ表紙の裏に、別々の権限がある。
1セントだけに60%を掛けるわけではない
米国のペーパーバックの料率表は、定価9.98ドル以下で50%、9.99ドル以上で60%としている。その割合を税抜き定価全体に掛け、印刷費を差し引く。追加の1セントだけが優遇される制度ではない。
公式の計算例は300ページの白黒本を使う。印刷費は4.60ドル。9.98ドルの半分から印刷費を引くと0.39ドル。9.99ドルの60%から同じ費用を引き、小数点以下2桁に丸めると1.39ドルになる。
原稿の価値が一晩で変わったわけではない。プラットフォームの表に段差があり、その段を上ったのだ。1セントは入場券のようなもので、次の区分へ入るのは価格全体である。
著者に残るこの金額から、編集、装丁、広告、そして執筆に費やした時間を支える。印刷費を引いたあとに残る額が小さければ、料率の10ポイント差は重い。売上高のわずかな差が、次の仕事に使える余力の大きな差になる。
公式例の丸め済みの額を使い、仮に冊数を比較してみる。0.39ドルで100冊なら39ドル。1.39ドルで29冊なら40.31ドル。後者は3分の1にも満たない冊数で前者を超える。これは算術の比較であり、どちらの価格で何冊売れるかを予測した数字ではない。
シリーズの入り口を安くする戦略はあり得る。ただし、その目的には予算が必要だ。増やしたい読者数と、譲ることになる1冊当たりの収入を並べる。「読者を広げる」という良い言葉に、支出の承認印まで兼ねさせないことである。
在庫を持たなくても、規則とは付き合う
注文に応じて印刷する仕組みは、著者が先に大量の本を刷り、売れるまで保管する負担を減らす。小さな出版事業にとって、これは大きい。読者を得る前から倉庫を用意する必要がなくなる。
しかし、印刷を容易にする仕組みと、収入を配分する規則は別の働きをする。印刷費の表で例の4.60ドルに対応するのは、米国市場、通常判型、白またはクリーム色の用紙、黒インクの300ページである。固定費1ドルと1ページ0.012ドルの合計だ。判型、用紙、インク、ページ数、販売市場を変えれば、費用を計算し直す。
流通経路もそろえる必要がある。Expanded Distributionは定価の40%から印刷費を差し引く方式だ。Amazonの標準流通の60%を、ほかの経路から届いた注文へそのまま適用することはできない。
何冊売れたかだけを合計すると、次の本を作る資金がどこから生まれたのか見えにくい。どの仕様を、どの価格で、どの経路から売ったか。その組み合わせが、出版を続けるために残る額を決める。
保存した価格が、その場で効くとは限らない
KDPが示す処理日程では、紙の本の価格更新には変更内容に応じて72時間から5営業日かかる見込みとされる。サイトとシステムの更新が終わるまでは、旧定価とその料率で小売注文のロイヤリティが算定される。
広告を出す直前に価格を直しただけでは、新しい取り分で読者を迎えられない場合がある。実際に適用された時点を記録し、その前後の注文を分ける必要がある。保存ボタンは販売計画の号砲に使えても、会計を先へ進める魔法にはならない。
入金はさらに先だ。標準流通の紙の本は通常、販売月の末から約60日後、Expanded Distributionは約90日後にロイヤリティが支払われる。1冊の採算が改善しても、今月の広告費を支払える現金が直ちに増えるわけではない。
個別作品の注文、返品、読者獲得費用の記録がないため、値付け変更後の総収益は算出できず、それらの記録が経営判断を変える。現行の料率表だけで分かるのは、価格の末尾が単なる見栄えではなく、分配を選ぶ装置だということだ。
読者に本を届ける努力は必要である。その努力が残すお金を、最後の1セントで取り逃がす理由はない。
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