要約
- Version 3の第6条は、承認取り消しを「重大な不遵守」+「修復の機会を与えられた後も不遵守が続く場合」に限定し、6.2節でリハビリテーション優先を推定規定とし、6.7(c)でICANNが対象RIRを除く3分の2以上のRIRの評価なしに承認を取り消せないようにしている(NRO, Version 3)。
- この文書は2026年7月28日にASO ACからNRO ECへ推奨ドラフトとして引き渡され、承認・採択は2026年第4四半期に予定されている未採択の草案である(ASO/ICANN、NRO タイムライン)。
- 現行のICP-2実施手続きでは、RIR発のコンプライアンス審査には他のRIRの全員一致が必要であり(ICANN 手続き)、ICANNは2025年7月16日の公開書簡で、AFRINICに対するコンプライアンス審査をまだ開始していないと明記した(ICANN 書簡)。
- AFRINIC側の会員向け説明は、2025年9月の理事会選挙とマウリシャス会社法に基づく職務再開、Cloud Innovation Ltdによる倒産申立てなどの係争を「レジストリを麻痺させようとする法務戦争」と描写する当事者の見解である(AFRINIC)。
- 換言すれば、この救済装置は紙の上で最も精密に仕様化された時点で、一度も実動テストを受けていない。
第6条の機械:誰が、何を根拠に、どの多数で
第3版の第6条は、承認取り消しを3段階で構成する。第一に、第4.1節の要件への重大な不遵守が前提となる。第二に、6.2節は「不遵守RIRの修復を支援する」ことを推定と定め、Rehabilitation Planと合理的な治癒期間を要求する。第三に、提案権はRIR、対象RIR会員の25%(または2,000会員のいずれか少ない方)以上の会員グループ、ICANNに限定され(6.3節)、最終決定は対象RIRを除くRIRの3分の2以上の評価を必要とする(6.7(c)節)。さらに第7条は、承認取り消しの提案が係属中や一時的緊急継続措置の期間中は文書の改正を禁止する(ASO/ICANN 根拠報告)。
この設計の意図は明瞭である。ICANNの一方的な削除を構造的に不可能にし、承認剥奪を最後の最後まで使いにくくすることだ。NROのFAQも、2026年7月28日の引き渡しと責任のNRO ECへの移管を裏付ける(NRO FAQ)。
一度も発動されなかった救済:AFRINICという最も近い事例
AFRINICをめぐる2021年以降の危機——管財人選任、倒産申立て、理事会選挙をめぐる係争——は、システムがこれまで生み出した唯一の「実地試験に近い」ガバナンス失敗シナリオである。だが記録が示すのは発動ではなく留保だった。ICANNは2025年7月3日の書簡でAFRINICに対するICP-2コンプライアンス審査の「全ての権利を留保する」と述べ(3 July 2025 書簡)、7月16日の書簡では「まだコンプライアンス審査を開始していない」ことを明記した(16 July 2025 書簡)。
この事実は二つの読みを許す。善意的な読みでは、留保は法的慎重さであり、審査を開始しないことは悪意ではない。批判的な読みでは、現行制度の全員一致要件が、いかなる失敗シナリオでも発動を妨げてきたということを、AFRINIC事例が示している。両読みとも記録上の当事者の主張であり、本稿はいずれかに断定しない。
何が証明されておらず、何が変わりうるか
第6条が運用可能であるためには、少なくとも三つの条件が実証されねばならない。対象RIRの「重大な不遵守」を裏付ける証拠基準が実務で機能すること。治癒期間の設計が遅延戦術を封じること。そして3分の2の同業多数決が、意地悪な否決ではなく実質審査として機能すること。Version 3は決定と根拠文書の公開、5年周期の監査、コンプライアンス審査の濫用防止策を追加しており(ASO/ICANN 根拠報告)、これらは透明性の改善ではあるが、発動の実証にはならない。
読者が注視すべき指標は明確である。採択後の初回監査結果、最初のCompliance Reviewの是非、そして何より、次のレジストリ危機が発生したときに同業RIRが実際に提案を出すかどうかである。
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