要約

  • ICANNの権限は、法人目的とBylaws、政策形成、契約上の義務、技術運用という異なる制度層を通じて具体化する。
  • 異議申立ての制度が存在することと、争われた措置が自動的に停止・取消し・復元されることは別である。

権限を一つの命令と見なせない理由

ICANNのArticles of Incorporationは、同法人をカリフォルニア州の非営利公益法人として位置づけ、固有のインターネット識別子のグローバルなシステムを、統治文書と政策に従って調整する目的を掲げている。[https://www.icann.org/resources/pages/articles-2012-02-25-en] この記述は、ICANNが何を調整するために設立されたかを示す。しかし、それだけで、世界中の事業者や利用者に対する無制限の公法上の命令権が生まれるわけではない。

権限の制度的な範囲を定めるのがBylawsである。Bylawsは、ICANNの使命、権限、政策構造、理事会の手続、コミュニティの参加制度、説明責任の枠組みを定める。[https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en] したがって、政策の承認、理事会の行為、コミュニティの関与、説明責任手続の可否は、同じ「ICANNの決定」という言葉で一括りにできない。どの機関が、どの文書に基づき、どの種類の判断をしたのかを特定しなければならない。

政策が契約上の統制へ変わる地点

ICANNのマルチステークホルダー・モデルによる政策形成は、政策を議論し、合意し、組織の手続を通じて承認するための仕組みである。しかし、政策形成そのものと、契約当事者に対する執行は同じ行為ではない。ICANNのコンセンサス・ポリシーに関する説明は、該当するレジストリ契約またはレジストラ契約に政策が組み込まれた場合に、政策が契約当事者に対して執行可能になるという接続を示している。[https://www.icann.org/resources/pages/consensus-policy-2012-02-25-en][https://www.icann.org/resources/pages/registrars/raa/approved-with-specs-2013-09-17-en][https://newgtlds.icann.org/en/applicants/agb/base-agreement]

この接続が、制度上の権限を実務上の制御へ変える。レジストラとの関係では、2013年のRegistrar Accreditation Agreementが、組み込まれた政策、コンプライアンス、報告、監査、停止、終了、紛争などを扱う契約上の条件を置く。[https://www.icann.org/resources/pages/registrars/raa/approved-with-specs-2013-09-17-en] レジストリ運営者との関係では、New gTLD Registry Agreementが、レジストリの運用、コンセンサス・ポリシー、技術的義務、コンプライアンス、料金、データ・エスクロー、紛争解決、終了後の移行などを規律する。[https://newgtlds.icann.org/en/applicants/agb/base-agreement]

ここで重要なのは、ICANNが契約を通じて行使できる力と、国家が法律に基づいて行使する公権力を区別することである。契約当事者に対する監査、報告要求、契約違反への対応、停止や終了の可能性は、まず当該契約とその改訂履歴によって評価される。契約当事者でない者が同じ手段を直接利用できるとは限らない。したがって「ICANNがドメイン名システムを支配する」という一般化は、誰に対する、どの文書上の義務なのかを隠してしまう。

IANAの運用と政策・契約の区別

IANA移行に関する資料は、IANA機能の実務的な遂行と、ICANNのより広い政策形成・契約上の役割を区別している。また、米国政府との契約による監督から、ICANNとグローバルなインターネット・コミュニティが関与する仕組みへの移行を説明している。[https://www.icann.org/resources/pages/iana-2016-08-15-en][https://www.icann.org/resources/pages/iana-functions-transfer-2016-08-15-en]

この区別は、制度の説明にとって決定的である。技術的な登録情報の維持や委任に関わる運用上の処理は、政策を作ることとも、契約違反を認定することとも異なる。ある結果がIANA機能の運用から生じたのか、理事会の政策判断から生じたのか、契約当事者へのコンプライアンス措置から生じたのかによって、適用される手続、証拠、救済の可能性が変わる。

救済制度は一つの上級審ではない

ICANNは、reconsideration、Independent Review、Ombudsman、Empowered Communityの権限を、異なる説明責任の経路として説明している。[https://www.icann.org/resources/pages/accountability/reconsideration-en][https://www.icann.org/resources/pages/independent-review-process-2017-03-24-en][https://www.icann.org/resources/pages/governance/accountability-mechanisms-en][https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en] これらは、誰でもどの決定についても本案を争える一つの包括的な上訴制度ではない。

Reconsiderationは、対象となる行為や不作為、申立人の資格、通知、期限、審査基準などの条件に左右される。Independent Reviewも、特定の制度基準に照らして問題となる行為を検討する手続であり、裁判所への一般的な上訴と同一ではない。[https://www.icann.org/resources/pages/accountability/reconsideration-en][https://www.icann.org/resources/pages/independent-review-process-2017-03-24-en] Ombudsmanは別の制度的役割を担い、Empowered Communityの権限はBylawsが定める一定の承認、拒否、解任、調査などの機能に結びつく。[https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en][https://www.icann.org/resources/pages/governance/accountability-mechanisms-en]

この違いは形式論ではない。誰が手続を開始できるのか、何を争えるのか、どの期限が適用されるのか、どの機関が判断するのか、結果として何が命じられるのかが、制度ごとに変わるからである。影響を受けたと感じることだけで、任意の制度へのアクセスが自動的に発生するわけではない。

正式な手続と運用上の効果は別の問題

最も見落とされやすいのは、手続の存在と運用結果の維持・変更を同一視することである。ICANNの説明資料が救済経路を示しているとしても、それだけで争われた措置が自動的に停止し、取消され、以前の状態へ復元されることは証明されない。[https://www.icann.org/resources/pages/accountability/reconsideration-en][https://www.icann.org/resources/pages/independent-review-process-2017-03-24-en][https://www.icann.org/resources/pages/governance/accountability-mechanisms-en]

実際の効果は、適用されるBylawsの条項、契約の文言、手続の段階、期限、決定がすでに技術運用へ反映されたかどうか、そして審査機関が利用できる救済の種類によって決まる。制度上の勝利が、直ちに技術的な復元を意味するとは限らない。反対に、契約上の措置が争われている場合でも、契約と手続に基づく結果が運用へ影響する可能性はある。

調査で確認すべき五つの問い

第一に、権限の直接の根拠は何か。法人目的、Bylaws、政策決議、契約、技術運用文書のどれなのかを分ける必要がある。第二に、対象者は誰か。契約当事者、参加組織、コミュニティ機関、その他の第三者では、利用できる統制手段が異なる。第三に、決定はどの法的・制度的形態を取るのか。政策、契約執行、技術処理、説明責任上の判断を区別しなければならない。

第四に、どの救済が適用可能かを確認する。申立資格、期限、通知、審査範囲、判断者を調べずに「異議を申し立てられる」とだけ述べるのは不十分である。第五に、救済が時間内に運用へ届くかを問う必要がある。正式な審査が終わるまでに、登録、委任、契約上の状態、技術的な処理が変わってしまうなら、手続の存在だけでは実効性を判断できない。

この五つの問いを通じて見ると、ICANNの正統性は、主権の有無という二択では測れない。制度の各層がどの範囲で権限を与え、誰に対してどのような結果を生み、どの手続がその結果を検証できるのかを追う必要がある。制度の強さは、広い言葉で権限を宣言することではなく、権限の根拠、対象、手続、救済、時間的効果を接続して説明できることに現れる。

なお、適用されるBylawsや手続は、争われた決定の日付によって異なる場合がある。レジストリまたはレジストラ契約も、事業者、改訂履歴、後継プログラムによって異なり得る。個別案件の結果や、申立てがいつ運用を変えたかを論じるには、その案件の記録が別途必要である。ここで確認できるのは、権限と救済がどのような制度層に分かれているか、そして正式な手続が存在することだけでは運用上の反転を保証しないという点である。