要約

  • AS210860 は 2026年3月26日以降、グローバル経路表に現れておらず、9月以降も複数の独立した経路観測者が同じ「ゼロ発表」状態を示している。
  • 権威ある RIPE Database のエンドポイント(apps.db.ripe.net の db-web-ui)は、今回の調査でも9月の報道と同様、JavaScript アプリケーションのページ・シェルしか返さず、一次的なフィールド値は一度も取得できていない。
  • したがって本稿のすべてのレジストリ値は、独立した二つの RIPE WHOIS ミラー(whois.ipip.net と ip.cc)がほぼ逐語的に再現した RPSL テキストに依拠する「ミラー由来」の観察であり、現在時制のレジストリ事実として扱えない。
  • 二つのミラーは aut-num 本体(status ASSIGNED、as-name edeka_digital、最終更新 2021-10-27)では完全に一致するが、ORG-EDG14-RIPE の org-name(EDEKA Verwaltungs- und Beteiligungs GmbH 対 EDEKA DIGITAL GmbH)と最終更新日(2026-05-13 対 2021-10-27)で食い違う。この組織オブジェクトの乖離が今回の新しい観察である。
  • RIPEstat は 2026-09-14 時点のスナップショットで status を「RESERVED」、保持者を「なし」と表示するが、RIPE NCC 自身の一次ドキュメントは aut-num の status 値を ASSIGNED/LEGACY/OTHER の三つに限定しており、RESERVED はあり得ない。これはレジストリ変更ではなく、異なるデータ層の表示差である可能性が高い。

経路:ゼロ発表の状態が続く

Hurricane Electric の BGP ツールキット(https://bgp.he.net/AS210860)は、AS210860 が 2026年3月26日以降グローバル経路表に現れておらず、現在発表しているプレフィクスはゼロ、RPKI 有効・無効いずれの origin もゼロ、と報告しています。歴史上 origin した IPv4 プレフィクスは一つ、193.21.248.0/21 で、EDEKA DIGITAL GmbH に帰属すると記され、観測された唯一の BGP ピアは AS9211(Nawork Internet Informationssysteme GmbH)です。

RIPE NCC 自身の RIPEstat(https://stat.ripe.net/resource/AS210860)は、2026-09-14 時点のスナップショットで「RIS で可視のプレフィクスを origin していない」「RIS のトランジット AS として観測されていない」と述べ、Prefix Details はゼロです。CIDR Report(https://www.cidr-report.org/cgi-bin/as-report?as=AS210860&view=2.0)も独立に AS210860 を「NOT Announced」に分類し、「この AS は現在グローバル経路表にプレフィクスを発表しておらず、可視のトランジット AS でもない」としています。IPinfo(https://ipinfo.io/AS210860)は同 AS を「Inactive」、プレフィクスゼロとラベル付けします。IPv4 専用ビュー(https://ipv4.bgp.he.net/AS210860)も同じゼロ発表の状態を記録しています。エンティティの背景情報として、BTW ディレクトリの DFINFRA 項目(https://btw.media/ja/directory/dfinfra)を参照できます。三者は互いに独立した測定体系でありながら、同じ結論に収束しています。

レジストリ:ミラー由来の aut-num 値

今回の調査は、9月の報道が明示的に「取得できなかった」と認めていた権威ある一次情報——RIPE Database Web UI による aut-num AS210860 の検索(https://apps.db.ripe.net/db-web-ui/lookup?key=AS210860&type=aut-num)——を直接読みに行きました。結果は再びページ・シェルのみで、フィールド値は得られませんでした。db-web-ui はクライアント側でレンダリングする JavaScript アプリケーションであり、RPSL 本文はページ読み込み後に取得されるため、この経路では逐語的なオブジェクト内容を確認できません。この限界は本稿のどこにおいても隠されていません。

代わりに、二つの独立したサードパーティ WHOIS ミラーが、ほぼ逐語的な RPSL テキストを返しました。whois.ipip.net(https://whois.ipip.net/AS210860)と ip.cc(https://ip.cc/topic/asn/AS210860/)の両者が再現する aut-num は次のとおり完全に一致します:as-name「edeka_digital」、org ORG-EDG14-RIPE、admin-c/tech-c とも DA9499-RIPE(役割オブジェクト DFINFRA)、status「ASSIGNED」、mnt-by RIPE-NCC-END-MNT と EDDI-MNT、import/export 宣言は AS9211 と AS13237 の対称ペア、created 2021-08-24T08:30:41Z、last-modified 2021-10-27T08:53:15Z、source RIPE。

つまり aut-num 本体は 2021年10月27日以降、ミラーの再現範囲では五年近く変化していません。DFINFRA 役割オブジェクト(DA9499-RIPE)も同様に、作成 2021-06-10、最終更新 2021-10-27 のままです。ただし、これらはミラー由来の値であり、権威あるレジストリの現在値として断定することはできません。

新たに観察された乖離:組織オブジェクト

今回の調査で新たに確認できたのは、同じオブジェクト・ハンドル ORG-EDG14-RIPE について二つのミラーが一致しないことです。whois.ipip.net は org-name を「EDEKA Verwaltungs- und Beteiligungs GmbH」、reg-nr「District court Hamburg HRB 90516」、org-type LIR、所在地 New-York-Ring 6, 22297 Hamburg、last-modified 2026-05-13T07:28:38Z と示します。一方 ip.cc は同じハンドルを「EDEKA DIGITAL GmbH」、last-modified 2021-10-27T08:58:29Z と示します。作成日(2021-06-10T07:41:43Z)は一致します。

この食い違いは三つの解釈を許します。(1) 一方のミラーが古いスナップショットを保持している。(2) 権威あるオブジェクトが 2026年5月に実際に更新された(名前変更や他属性の変更を含む)。(3) ミラーのフィルタリングや再構成の差異。権威ある一次情報が取得できない以上、本稿はいずれにも与しません。しかし、9月の報道では記録されていなかったこの 2026年の組織オブジェクト更新示唆は、AS210860 を取り巻くレジストリ面が完全に凍結しているわけではない可能性を初めて具体的に示す観察です。

また、ipgeolocation.io(https://ipgeolocation.io/browse/asn/AS210860)という薄いアグリゲータは、AS210860 を「RIPE Network Coordination Centre」組織、Date Allocated「N/A」、経路ゼロと表示しており、他の全ソースと矛盾します。これは保持者の解決に失敗した際に IANA/RIPE NCC の親レコードへフォールバックする低忠実度アグリゲータの挙動と説明するのが最も筋が通っており、レジストリ状態の矛盾証拠とは扱いません。

RESERVED 問題の再解釈

RIPEstat の RIR テーブルは、AS210860 を「RIPE NCC|RESERVED|-」と表示し、保持者欄を空欄にします(スナップショット 2026-09-14)。9月の報道はこれを未解決の status 層の矛盾として扱いました。今回、RIPE NCC 自身の一次ドキュメント(https://docs.db.ripe.net/RPSL-Object-Types/Descriptions-of-Primary-Objects/)を取得し、決定的な解釈鍵を得ました。aut-num オブジェクトの「status:」はソフトウェア生成の属性であり、取り得る値は「ASSIGNED」(RIPE NCC により割り当てられた全 AS 番号)、「LEGACY」、「OTHER」の三つだけです。利用者はこの値を設定・変更できません。

つまり「RESERVED」は aut-num の status 値として存在し得ない。RIPEstat の表示は、aut-num オブジェクトではなく、レジストリ情報(registry information)の別のデータ層を反映している可能性が高い。これは AS210860 のレジストリ状態が変化したことを示すものではなく、二つの観測面が異なる層を読んでいることを示します。ただし、RIPEstat の当該パネルがどのデータソースに基づくかの説明注記はページ上にないため、この再解釈も確証ではなく、最も整合的な説明というにとどめます。

経路オブジェクトの未解決の問い

RIPE のフレームワークでは、プレフィクスは aut-num の属性ではなく、別個の route/route6 オブジェクトを通じて origin に紐づきます。mnt-routes がない場合、mnt-by の維持者が origin AS の route オブジェクト生成を認可します。今回取得したどのミラー出力にも route/route6 オブジェクトは現れませんでしたが、AS番号キーの検索では route オブジェクトは範囲外であり、その不在は存在しないことの証明にはなりません。RIPE の inverse-origin 検索または REST API(https://docs.db.ripe.net/How-to-Query-the-RIPE-Database/RESTful-API-Queries、/versions パスでオブジェクト履歴も取得可能)による直接照会は、依然として未実行のままです。

結論:変わっていないのは状態であり、変わったのは証拠

AS210860 の観察可能な運用状態は、2026年3月26日以降変わっていません。ゼロ発表、RPKI エントリゼロ、単一の過去プレフィクス——三つの独立した経路観測者が同じ像を描きます。レジストリ面でも、aut-num と DFINFRA 役割オブジェクトは 2021年10月27日から変化が観察されていません。

しかし証拠の層では前進があります。権威ある一次エンドポイントの取得失敗が今度も再現されたことで、「ミラー由来」という限界が実証的に確定したこと、組織オブジェクトの二つのミラー間乖離(org-name と 2026-05-13 の更新日)が初めて文書化されたこと、そして RIPEstat の RESERVED 表示が一次ドキュメントの status 語彙と突き合わせて、レジストリ変更ではなくデータ層差の説明に再分類されたことです。control chain の四層(記録・認可・観測・制御)のうち、「認可」(route オブジェクトの内容、ROA 状態)の層は今も閉じられていません。それを閉じるには、RIPE の inverse-origin 検索と RPKI エクスプローラの一次照会が次の条件となります。