要約

  • 2019 年に決定された ABS の x86 Linux 再構築により、アリアンツは 2022 年の復活祭でメインフレームから完全に撤退した。移行予算は「3 桁台前半のユーロ百万単位」とされ、全データセットの移行には 48 時間を要したと報じられている。
  • Allianz Direct は 2020 年にプライベートクラウドから AWS へ移行し、2022 年半ばに Jenkins から Tekton と Argo CD へパイプラインを刷新し、リリースパイプラインを約 200 ワークフローから 10〜15 ワークフローへ削減した。
  • Project Nemo (2025 年 7 月、オーストラリア) や Insurance Copilot (2024 年、オーストリア) などの AI クレーム自動化は生産環境に到達しているが、その効果指標はすべて当事者公表値であり、独立検証は限られている。
  • 従業員数は「1 万人超」という当事者公表値と、第三者推計 (約 11,000〜12,000 人、手法不透明) の間に開きがある。

メインフレームからの撤退: ABS 再構築の実際

アリアンツの中核保険プラットフォーム Allianz Business System (ABS) は、発表当時、19 カ国で約 6,000 万件の保険契約を処理しているとされた。2019 年 11 月 14 日、Allianz SE と Microsoft は戦略的提携を発表し、ABS の中核部分を Azure へ移行するとともに、コアの一部をオープンソース化する方針を示した https://news.microsoft.com/source/2019/11/14/allianz-partners-with-microsoft-to-digitally-transform-the-insurance-industry/ 。この発表は PR Newswire 経由でも配信され、日付と Azure 移行、Syncier の「ABS Enterprise Edition」提供という二つの記録で裏付けられている https://www.prnewswire.com/news-releases/allianz-partners-with-microsoft-to-digitally-transform-the-insurance-industry-300958051.html 。

このクラウド化の前提となったのが、独自 x86 Linux サーバーへの再構築だ。独立系技術媒体の報道によれば、2019 年半ばに決定された「ABS Goes Linux」計画では、中核 IT アプリケーションとドイツのデータベース (最大級の Linux ベース DB2 データベースの一つとされる) を標準化された x86 サーバーへ移すことが決まり、ABS は 2022 年の復活祭でメインフレームから撤退した。データセット全体の移行には 48 時間を要し、予算は「3 桁台前半のユーロ百万単位」で 3〜4 年での回収が見込まれ、コアチームは約 500 人、時期により約 3,000 人が関与、約 1,000 人がテストに動員されたとされる。規制当局 BaFin も告知を受けたと報じられている https://www.cio.com/article/479654/examining-allianz-technologys-decision-to-replatform.html 。この再構築はドイツ語圏の技術媒体でも「アリアンツは Linux へ移行する」として報じられている https://www.cio.de/article/3695492/die-allianz-wechselt-auf-linux.html 。

当事者発表と独立報道の乖離に注意すべき点は三つある。第一に、CIO の記事は取得スナップショットに発行日が含まれておらず、引用の帰属を慎重に扱う必要がある。第二に、チーム規模の「約 500 人」と「約 3,000 人」は測定範囲が異なる別の数値であり、同一の事実ではない。第三に、6,000 万契約という規模は 2019 年の当事者公表値であり、独立検証されていない。

Allianz Direct: プラットフォーム工学の実態

Allianz Direct はアリアンツの直販デジタル保険事業で、CNCF (Cloud Native Computing Foundation) 公開の事例研究によれば、プライベートクラウドで開始した後、2020 年に AWS パブリッククラウドへ移行した。2022 年半ばには Jenkins ベースの CI/CD パイプラインを Tekton (ビルド/統合) と Argo CD (デプロイ) に刷新し、リリースパイプラインを約 200 ワークフローから 10〜15 ワークフロー (40〜50 コンポーネント) へ削減した。パイプライン 11 ツールのうち 9 つが CNCF プロジェクトで、専用ツールは Prisma のみとされる https://www.cncf.io/case-studies/allianz/ 。

アーキテクチャ記録は更に踏み込む。Allianz Direct のプラットフォーム工学機能は約 500 名のエンジニアと約 1,500 名の従業員にサービスを提供し、EKS と Fargate ECS 上で AWS アカウント、ネームスペース、Fargate レベルのマルチテナンシーを実装する。GitOps ツールには Argo CD、Atlantis 併用の Terraform、Crossplane が含まれ、2024 年 10 月 28 日時点でこの構成に至るまで約 4 年を要した。このプラットフォームは Allianz Group の標準となり、B2C と新規 B2B 事業で利用される一方、3 つのプラットフォームアーキテクチャを 2 つへ統合する目標が掲げられている https://architecture.cncf.io/architectures/allianz/ 。

コンサルティング会社 McKinsey の事例では、Allianz Direct は AI 基盤の損失評価を用いた「60 秒クレーム」を構築し、写真や書類のアップロードで 1 分未満の処理を可能にしたとされる。従業員の約 3 分の 1 が技術またはデータ職であるという社内比率も付随して報告されている https://www.mckinsey.com/capabilities/tech-and-ai/how-we-help-clients/rewired-in-action/allianz-direct-advancing-as-europes-leading-digital-insurer 。Allianz Direct CEO Bart Schlatmann 氏への取材では、複数の規制市場を一つのプラットフォームで運用するモデル、マイクロサービス・アーキテクチャ、エージェント・ウェブ・コンタクトセンターを横断する統一データモデル、ホーム保険の企画から最初の市場投入まで 4 か月という速度が語られている https://www.mckinsey.com/capabilities/mckinsey-digital/our-insights/a-digital-business-builder-an-interview-with-the-ceo-of-allianz-direct 。

生産環境のクレーム自動化: Nemo と Copilot

クレーム自動化の成果は当事者発表の中核にある。2025 年 7 月にオーストラリアで開始された Project Nemo は、食品傷害クレーム向けに 7 つの特化 AI エージェント (プランナー、サイバー、補償、気象、不正、支払い、監査) を使用するアリアンツ初の統合エージェント型 AI とされ、処理・決済時間を約 80% 削減したと主張する。100 日未満で構築され、人間による最終支払い決定は残される設計だ https://www.allianz.com/en/mediacenter/news/articles/251103-when-the-storm-clears-so-should-the-claim-queue.html 。

アリアンツ・テクノロジー自身が開発した Insurance Copilot は、2024 年にオーストリアで自動車クレーム向けに開始された (2023 年後半の実験に由来)。データ収集、文書・画像分析、意思決定支援、コミュニケーション草案を自動化し、補償と支払いの判断には人間を残す。対象は財産クレームへ拡大し、アジアを含むグループ事業体への展開が進められている https://www.allianz.com/en/mediacenter/news/articles/250205-smarter-claims-management-smoother-settlements.html 。

アリアンツの標準化 AI ライフサイクルに関する 2026 年 3 月の公表では、ドイツのペット保険で 2025 年に全クレームの 49.7% が完全自動処理で対応されたことが記されている。オーストラリアでは、上限 AUD 500 のクレームが全体の 95% を占める食品傷害領域で、AUD 500 未満の処理時間が約 7 日から 1 日未満に短縮されたとされる。却下可能性のある案件は人間の担当者へエスカレートされる設計である https://www.allianz.com/en/mediacenter/news/articles/260318-responsible-use-of-ai-at-allianz.html 。

これらの指標はいずれも当事者公表値であり、独立した測定検証は現時点で提供されていない。ただし、人間の最終決定を保持する設計や却下エスカレーションは、監査可能な構造的特徴であり、マーケティング数値より高い信頼性を持つ。アリアンツの人事部門はクレーム自動化を担う Claims Solution Designer をミラノで募集中であり、この分野が組織の継続的投資領域であることを傍証している https://internal-careers.allianz.com/job/Milan-Claims-Solution-Designer_2059-20145/1403534033/ 。

Allianz Ayudhya: グループ標準の移行テンプレート

タイの Allianz Ayudhya は 2023 年に AWS への移行を開始し、リフトアンドシフトと選択的再設計で 500 台超のサーバーを移した。2023 年の P&C フェーズでは 3 日間の混乱でクラウド採用が 30% から 45% へ、2025 年の L&H フェーズでは混乱を 1 日に抑えて採用が 76% に達し、グループ目標の「2025 年までに 75% クラウド化」を上回ったとされる。4 つのデータセンターは 1 つの本番サイトと 1 つの DR サイトへ統合され、サーバー・データセンター運行費は 2024 年の約 800 万米ドルから 2026 年の約 600 万米ドルへ (24% 減) 落ちると説明される。さらに 6 か月間で 300 以上のコンテナ化アプリケーションを Azure から AWS へ移し、Oracle ワークロードはグループ全体の OLA 下で AWS ネイティブ DB へ再構築された https://www.softwareone.com/en/case-studies/global/finance/allianz-aws-migration 。

この事例は当事者ベンダー (SoftwareOne) の記述であり、2026 年の前向きコスト数値は推計である。しかし移行順序 (低複雑度の P&C を先に、L&H を後で)、混乱日数の逓減、目標超過という構図は、Allianz Direct と共通する「グループ標準を一国で鍛えてから展開する」手法と整合する。

組織規模の測定

Allianz Technology は「1 万人超のプロフェッショナル」を自称している https://tech.allianz.com/en/who-we-are/our-people.html 。第三者 workforce-analytics 企業 Revelio Labs は、2023 年の約 12,100 人から 2026 年の約 11,396 人への推移、南アジア (約 43.5%)、西欧 (約 24.4%)、南欧 (約 10.7%) への集中、機能別では Finance/Operations 40.0%、Engineering 39.5%、Sales/Marketing 20.5% という推計を公表している。ただし、この推計は手法が不透明で、内部に矛盾を含み、当事者公表値と整合しないため、方向性の参考としてのみ扱うべきである https://www.reveliolabs.com/companies/allianz-technology/employees 。