要約

  • 米国国立標準局は1981年に提案を RFC 806 として配布し、1983年1月27日にFIPS Publication 98を発行した。確定した本文を収めた RFC 841 は、ARPAの研究者への公開を目的とし、ARPAインターネットの標準という地位は与えていないと冒頭で明記した。
  • FIPS 98が共通化したのはコンピューターによるメッセージシステム間の交換形式である。内部の保存、画面表示、転送方式は各システムが選べた。新たな自家開発には発行から12か月、対象となる発注には24か月という時点があり、適用除外の決裁者は商務長官だった。

書類棚の前に立つ司書を思い浮かべてほしい。分厚い仕様書を受け取り、背に「RFC 841」と書き、誰でも探せる場所に収める。隣の建物では、同じ仕様書を前に調達担当者が発注日を数えている。司書が何部複写しても、発注の承認印は増えない。1983年のFIPS 98には、そんな二重生活があった。

国立標準局は1981年、コンピューターを使うメッセージ交換の案を RFC 806 で公開した。1983年1月27日の正式な連邦情報処理規格がFIPS 98で、その本文が RFC 841 として研究界にも届いた。RFC 841の冒頭は妙に率直だ。RFCとして流すのはARPAの研究者が入手しやすくするためであり、ARPAインターネットの標準を定める文書ではない。公開する窓口と、義務を課せる組織を混同させないための一文である。

共通化の範囲も狭く、そこが肝心だった。FIPS 98が対象にしたのは、コンピューターによるメッセージシステム、CBMS同士が接する場所でのメッセージ形式。送る側は出口で共通形式に変換し、受ける側は入口で必要な項目を読み取る。システム内部の保存方法、利用者に見せる画面、各種サービスはそれぞれの設計でよい。メッセージの転送手段は形式を透過的に運び、転送用の封筒や制御情報はこの形式の外に置かれる。同じ書類を受け渡すために、全庁の引き出しの数まで揃える必要はなかった。

この設計が想定する宛先は、人だけでもない。RFC 841 は個人、職務上の役割、ソフトウェアの処理を送り手や受け手として扱い、相手がすぐ利用できない場合はメッセージを保存できるとしている。事業者独自の拡張を入れる余地もあった。互いに異なる機械が共通の境界を持つための規格であり、機械の中身を一列に整列させる号令ではなかった。

一方、連邦政府の時計は細かい。規格は、ネットワークでつながるCBMSを取得・使用する対象の連邦機関に及ぶ。単独運用の機械は扱いが異なり、計算機科学や通信の研究だけを目的とするネットワークは適用を免れる。既存の網に新しい節点が加わるなら、旧節点を改修するか、接続部に変換器を置く道がある。発行から24か月後に発注する対象の機器・サービス、自前で12か月後に始める新規開発には、それぞれ規格への適合が求められた。費用や性能で利点を示せる機関の長は免除を申請できたが、判断するのは商務長官。承認前に勝手に逸脱する手順にはなっていない。

ここで見えるのは、開かれた技術文書と限定された調達権限の組み合わせだ。政府は自分の発注に共通の入口を要求できる。研究者は公開された仕様を読み、議論できる。受け渡すメッセージは境界で姿を揃え、内部の機械はそれぞれの仕事を続ける。RFCの棚札は広く旅をした。決裁印は机から動かなかった。