要約
- AIの判断履歴を扱う個人投稿のVAP草案は、10月24日の第02版で表題から「証拠級」を外し、「監査可能」に改めた。記録を証拠として採用するかは、所管機関または裁判所が決めると改訂理由に明記した。
- 外部に固定された記録の束なら、固定後の抜き取りを検出できる。最初から記録されず、ほかの痕跡もない判断はその検査に現れない。草案には外部実装の確認例も、手続で採用されたVAPのEvidence Packも載っていない。
実装欄に並ぶ二つの「ゼロ」
仕様の売り文句を見る前に、VAP第02版の実装状況を読むべきだ。外部によるVAPまたはそのプロファイルの実装は、知られていない。規制、司法、監査の手続で採用されたEvidence Packも、ない。研究用の検証器は合成事例で試されているが、独立した再現の記載はない。この三つの現状を踏まえると、表題の変更が急に重く見える。
一つ前の第01版は、AIの判断履歴を「Evidentiary-Grade」と呼んだ。10月24日に公開された第02版は「Auditable」に置き換え、本文からも前の表現を削った。改訂履歴は、記録を証拠として受け入れる権限は所管機関や裁判所にある、と理由を示す。試作品の名前に判決を埋め込むことをやめたわけだ。
この差は机上の語義ではない。自動判断の監査システムを調達する組織は、署名、受領証、時刻、検証画面を見せられる。そこで「証拠級」と言われれば、将来の紛争に必要な説明まで納品されたように聞こえる。しかし技術検証が扱うのは、定められた範囲の記録が後で書き換えられたかという問いだ。何を記録する設計だったか、その入力は正しかったか、手続で何を立証すべきかは別の問いになる。第02版の表題は、買い手がその違いを契約前に問えるようにした。
IETF Datatracker上の位置づけは、現在有効な個人Internet-Draftである。IETFによる正式な標準化の承認は得ていない。提案者は、SCITTの透明性、RATSのリモートアテステーション、COSEの署名を組み合わせて、AIの判断を後から検証する枠組みを描く。RFC 9943にはSCITTの署名済みステートメント、登録方針、透明性サービス、受領証の仕組みが記されている。既存部品の規格と、それをVAPとして結ぶ新しい提案は、同じ承認段階にはない。
封印できるのは、入った記録だけ
草案の第02版は、完全性の射程も正確に書き直した。束の約束には、少なくとも記録件数、最初と最後の識別子、作成に用いた方針の識別子を含める。署名された根を外部に固定した後で、約束済みの記録を抜き取れば、後から示された履歴と固定済みの値が食い違う。連番の穴も手掛かりになる。事後の改ざんに対して有用な仕組みだ。
一方、記録の入口より手前で消えた判断は別だ。要求が記録されており、その応答が欠けていれば気づける可能性がある。要求も判断も残されず、第三者の記録にも現れなければ、照合するものがない。予定された記録の全集合や導出規則を活動前に約束する仕組みは、草案では将来の検討事項に置かれている。ログの運営者が撮影範囲を決め、暗号がその範囲内のフィルムを守る。この順番を逆に読めば、きれいな証明は危うい飾りになる。
外部への固定にも設計上の選択がある。提案者が引用する別のVSO要件は、各適合レベルで署名した束の根を独立した外部システムに置き、固定先が使えない場合の継続計画を求める。固定間隔が長ければ、外部の目が届かない期間も長くなる。時刻認証局は、ある根がある時点で存在したことを示せるが、受け手ごとに違う履歴が提示されたかを単独で監視するわけではない。誰を証人にし、どの頻度で会わせるかは運用者の決定である。
提案者は次にSecDispatchで議論し、SCITTとRATSから意見を求め、その後で作業の場を判断すると書く。外部の再現実験、事前に固定された記録対象、そして実際の手続での受け入れが示されれば、評価の材料は増える。現在の事実はもっと明快だ。第02版は「監査可能」を提案し、「証拠として採用された」とは名乗っていない。
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