要約
- IRPパネルは対象行為が定款・細則に違反したかを宣言できるが、救済の権限は行為の停止や具体的措置の勧告にとどまる。
- 理事会は可能な場合、次回会合で対応を検討し、表明された根拠に基づき遵守を承認または拒否して公の記録に残さなければならない。決定自体は理事会の行動にかかわらず最終である。
- 決定は発出から60日以内に常設パネル全体(en banc)へ上訴でき、理事会が上訴せず拒否した場合、請求者または権限付与コミュニティが管轄裁判所に執行を求められる。
- 第1次.WEB IRPの2021年5月20日付最終宣言はICANNの違反を認定しつつ、競合入札の失格や登録契約締結を命じる請求を明示的に退けた。
- 第2次.WEB IRPは2026年7月22日付の表示で「撤回」となり、同日にVerisignが.WEBのルートゾーン委任を発表した。公開記録は両者の因果を示していない。
- ALACのATRT4共同再審請願は、他の決定参加者の支持が得られず2025年7月11日に開始手続が終了した。争点は本案に入っていない。
宣言と救済の非対称
細則は、IRPパネルが「対象行為」が定款または細則に違反したか否かを宣言できると定める。しかし是正の権限は、ICANNに対して行為の停止や暫定的・具体的な救済措置を勧告することに限られる(ICANN Bylaws)。パネルは違反の有無を確定できるが、その違反をどう直すかを命じることはできない。
この分割は、判断の権威と実行の権威を別の主体に置く設計である。判断は裁判に近い手続で下され、実行は被審査者自身の意思決定と、その決定を外部から動かす経路に委ねられる。
理事会は公の記録で答える
第4.3(x)条はさらに踏み込む。ICANNはIRPパネル決定に最終的かつ拘束的な仲裁として拘束されることに同意している。理事会は可能な場合、次回会合で決定への対応を検討し、表明された根拠に基づいて遵守を承認または拒否し、それを公の記録に残さなければならない。ただし決定自体は、理事会が何をしようと最終である。決定は発出から60日以内に常設パネル全体(en banc)へ上訴でき、理事会がen banc上訴を行わずに決定を拒否した場合、請求者または権限付与コミュニティ(Empowered Community)は管轄裁判所に執行を求められる(ICANN Bylaws)。
要するに、拘束力の所在は宣言にあり、救済の実行は理事会の記録、内部上訴、裁判所という三つの経路に分配されている。いずれも自動ではない。
第1次.WEB IRP:違反認定と、退けられた請求
Afilias Domains No. 3 Limited(現Altanovo Domains Limited)が提起した第1次.WEB IRP(ICDR事件番号01-18-0004-2702)で、パネルは2021年5月20日付の最終宣言において、ICANNが定款および細則に違反したと認定した。同時に、.WEBへの競合入札を失格とすべきとする拘束力ある宣言の請求と、.WEBの登録契約を請求者と締結するよう命じる請求を、明示的に退けた(Final Declaration)。
違反の認定と、具体的な帰結の拒否が同じ文書に同居している。違反を認めさせることはできても、その違反から何が帰結するかを決めるのは別の場面だ、という構造がそこに現れている。
第2次.WEB IRP:本案審理の末の撤回
Altanovo Domains Limitedは2023年7月14日に2度目のIRPを提起した。ICANNが公表する手続ページはこの事件を「Withdrawn(撤回)」と表示し、請求者が独立レビューの請求を撤回したと記載している。ページには2026年7月22日という日付と第11手続命令が並ぶ(IRP docket)。
この撤回は、公表済みの記録の上では突然ではない。2026年6月25日付のICANNのCEP・IRP状況更新では、.WEBはなお「係属中のIRP」に分類され、2024年3月29日に全パネルが確定し、2025年11月17日から21日まで本案審理が行われたと記録されていた。同じ表にはIRPパネル最終宣言に対する理事会の検討日という欄が設けられているが、.WEBについてその日付は記録されていない(status update)。手続は本案審理まで到達しながら、公表された本案判断を残さずに終わった。
その同じ日、2026年7月22日、Verisignは.WEBがDNSルートゾーンに委任され、同社が指定登録事業者になったと発表した。発表は、委任が「gTLDに関連するこれまでのすべての紛争の解決」に続くもので、その詳細は秘密であると述べ、.WEBはICANNの基本登録契約(Base Registry Agreement)に服するとしている(Verisign)。
公開記録が示すのは、撤回と委任が同一日に起きたという事実である。両者の因果関係、和解の有無、その条件を示すものではない。Verisignは紛争解決の詳細を秘密と説明している。
共同再審:支持という閾値
個人や実体が使える再審請求とは別に、Empowered Communityには集団的な権限がある。5つの決定参加者(ASO、ccNSO、GNSO、ALAC、GAC)で構成され、予算や運営計画の拒否、標準細則改正の拒否、PTIガバナンス行為の拒否、基本細則・定款変更や資産売却の承認、理事会全員の解任、社長以外の個別理事の任免、共同再審・調停・コミュニティIRPの開始など、9つの権限が列挙されている(Empowered Community)。これらはいずれも単独の参加者では発動できず、複数の決定参加者の支持を必要とする。
その閾値が実際に働いた例が2025年にある。理事会は2025年5月19日、ICANNレビューに関するコミュニティ対話を待つ間、第4次説明責任・透明性レビュー(ATRT4)の延期を継続する決議を行った。根拠説明は、ATRT4が2024年4月29日に12か月を超えない範囲で延期されたこと、同じ会合でSSRおよびRDS特定レビューの延期も継続し、パイロット全体レビューを終結させたことを記録している(Board resolutions)。
ALACは2025年6月19日、これらの決議を対象とする共同再審請願を提出した。Empowered Community Administrationは2025年7月11日、他の決定参加者からの支持が、同日06:59 UTCに満了する支持期間内に得られなかったとして、細則別表D第4.3(b)(ii)条に基づき共同再審開始手続を終了させたと証明した(ECA notice)。
請求は本案の当否では終わっていない。支持の閾値で終わっている。集団的権限は個々の参加者の権利ではなく、共同行為の条件として設計されている。
この記録で検証されていないこと
今回参照した資料の範囲では、IRP宣言の執行を求めて裁判所に持ち込まれた手続は見つからない。第4.3(x)条が用意する執行ルートは、少なくともこの記録の上では未使用である。第1次.WEB IRPの宣言はより古い版の細則の下で出されており、現行の統合テキスト(2025年1月9日改正)との文言差は排除できない。さらに、第2次手続の本案判断が公表されていないため、その実質的な帰結を手続ページから評価することはできない。
ICANNに関する継続的な記録はディレクトリ項目にまとめている。
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