要約
- APNIC 62ではprop-172のコンセンサス判断が行われなかった。提案は引き続き審議中で、現行のAPNICポリシーを変更していない。
- v002は「IPアドレスの不正利用」を技術的被害に絞り、最初の判断を資源保有者に委ねる。異議が出た対応をAPNICがどう評価するかは、なお明確でない。
分析
不正利用の定義は、資源保有者がどの苦情に対応すべきかを決める基準になったとき、単なる用語の問題ではなくなる。APNICのprop-172は、その境界を問う提案だ。第2版では中核となる定義から「違法」という語が外れ、地域ごとに異なる法基準に左右されない形になった。対象は、インターネットの安全性・安定性・信頼性への技術的な被害を生じさせる行為、被害を試みる行為、または重大なリスクをもたらす行為で、資源保有者が実際に対処できる場合とされる。
例として、マルウェアのホスティング、DDoSトラフィック、悪意あるスキャンや侵入、BGPハイジャックなどの経路制御への攻撃、不正な資源移転、フィッシングやなりすましに使われるインフラが挙げられている。v002は未遂の被害も含め、善意で対応する場合のセーフハーバーを加え、国内法との関係も明確にした。v001への懸念の一部に応える変更だが、苦情が届けばその主張が証明されたことになるわけではない。
提案者は、新たな義務、報告要件、コンプライアンス制度を設けるものではないとしている。一方、現行のAPNIC-127ポリシーは、各資源レコードにインシデント対応チーム(IRT)オブジェクトを置き、登録された連絡先を監視し、悪用の苦情に速やかに応じるよう既に求めている。prop-172は、既存の応答義務に定義を与え、将来の政策提案の出発点にする。今すぐ新しい執行手段を追加しなくても、既存義務の解釈を変え得る点は小さくない。
最初の判断は、申立てに正当な根拠があり、対応可能な場合には資源保有者が行うと提案は定める。またAPNICは不正利用そのものを裁定しないとする一方、正当な苦情を悪意をもって無視した保有者に説明責任を問う可能性も示している。根本の行為が不正利用かどうかを間接的に判断せずに、対応の適否をどう測るのか。APNIC事務局はv001を対象と明記した影響評価で似た役割の曖昧さを指摘した。v002は論点を認めたものの、作業部会案と今後の政策議論に委ねている。
APNIC 62で議長はコンセンサス判断を行わなかった。APNICの会議報告によれば、議論はPolicy SIGのメーリングリストで続く。これは反対票や提案の却下を意味しない。現在の提案一覧でも審議中とされ、新しい定義は発効していない。政策策定プロセスでは、コンセンサスに達した提案も、会員レビュー、最終コメント期間、理事会の承認、実施を経る必要がある。prop-172はまだそこに至っていない。
ここに残るのは統治上の課題であり、結論ではない。実効性のある不正利用窓口には、申立てを対処可能なネットワーク運営者まで届ける経路が要る。他方、資源保有者には、未検証の主張を事実認定と誤認しないための証拠と手続き上の保護が必要だ。次の版ではこの二つを分ける必要がある。迅速な応答を求めることと、APNICをあらゆる係争事案の裁定者にすることは同じではない。
出典
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