要約
- 2026年5月3日、ICANN理事会は定款第27条の標準定款修正を承認した。新たな27.6節(特定審査のタイミング)は、特定審査のための暫定的な一時停止・リセット機構を設ける。
- ALACは意思決定参加者として2026年6月1日にECAへ拒否手続申立て通知を提出した。これは当該サイクルで受理された唯一の申立てであり、FY27の計画・予算3件に関する拒否手続は申立て不在のためAnnex D 2.2(c)(ii)により自動終了した。
- ASOはNRO執行理事会を通じてAFRINIC、APNIC、ARIN、LACNIC、RIPE NCCの各コミュニティにCCGメーリングリストで協議を要請したが、申立てを支持する意見は一件も寄せられなかった。ASOは6月9日、不支援の決定をECA/ALACへ伝えた。
- Annex D 2.2(d)(ii)に基づき、ECAは支援期間満了(2026年6月9日06:59 UTC)をもって、第27条標準定款修正に関する拒否手続の終了を認定した。終了認定通知にはECAの5代表が署名した。
理事会承認:第27条修正と新27.6節
出発点は理事会の承認行動である。2026年5月3日、ICANN理事会は定款第27条への修正を承認した(ASOのコミュニティ向けフォローアップ通知、NROの通知、ECAの終了認定通知)。修正は新たに27.6節「特定審査のタイミング」を設け、ICANNの特定審査(Specific Reviews)について、開始時期に関わる暫定的な一時停止・リセットの機構を定める。承認されたのは根本修正(fundamental amendment)ではなく標準定款修正(standard bylaws amendment)であり、この区分が後の軌道の分岐点となる。
拒否手続の起動:ALACの申立て通知
ALACは、エンパワード・コミュニティ意思決定参加者(decisional participant)の資格で、2026年6月1日にECAへ拒否手続申立て通知(Rejection Action Petition Notice)を提出した(ECA終了認定通知、ECAdminの記録、ASOフォローアップ通知)。対象は定款第27条への標準定款修正であり、申立ての理由として、審査のさらなる遅延、遅延の制度化、審査サイクル間の過大な間隔、パブリックコメント入力への不十分な処理が挙げられている。
唯一の申立てと、申立てなき自動終了
ECAdminに残された記録によれば、このALACの申立ては当該サイクルで受理された唯一の拒否手続申立て通知だった。並行して審査対象となっていたFY27の計画・予算3件に関する拒否手続は、申立てが一件も提出されなかったため、Annex D 2.2(c)(ii)に基づき自動的に終了した。つまり、このサイクルで拒否手続が本格的に起動したのは、第27条修正に対するALAC申立ての一件のみである。
手続の時計:通知日から支援期間満了まで
日付の並びを整理する。事務局は2026年5月11日を拒否手続理事会通知日(Rejection Action Board Notification Date)として扱い、ここから21日間の申立て期間を設定した。申立て締切は2026年6月1日23:59 PDT(6月2日06:59 UTC)に延長され、ALACの申立てはこの期間内に提出された(ECAdminの記録)。申立て受理後の支援期間は7日間とされ、2026年6月8日23:59 PDT(6月9日06:59 UTC)に満了した。この枠組みは、ICANNが2018年3月6日に発行した拒否手続手引が定める手続設計に沿うものである。
ASOの協議:RIRコミュニティへの照会と「支援意見ゼロ」
ASOは、コミュニティ拒否申立てへの支持を検討するよう求められた(ASOフォローアップ通知、NROの照会通知)。NRO執行理事会は、AFRINIC、APNIC、ARIN、LACNIC、RIPE NCCの各コミュニティに対し、それぞれのCCGメーリングリストを通じて協議を要請した。その結果、申立てを支持する入力は一件も寄せられなかった(ASOからALACへの書簡)。
ASOの決定:不支援
協議結果を受けて、ASOはコミュニティ拒否申立てを支援しないことを決定し、2026年6月9日にその旨をECA/ALACへ伝えた(ASOからALACへの書簡、ASOフォローアップ通知)。番号資源コミュニティ側の意思決定参加者が支持に回らなかった時点で、申立てが支持閾値に達する道は実質的に閉じた。
ECAによる終了認定
Annex D 2.2(d)(ii)に基づき、ECAは、支援期間の満了時点(2026年6月9日06:59 UTC)で他の意思決定参加者からの支持が得られなかったことを根拠に、第27条標準定款修正に関する拒否手続の終了を認定した(ECA終了認定通知)。通知にはECAの5代表——Germán Valdez(ASO)、Jonathan Zuck(ALAC)、Alejandra Reynoso(ccNSO)、Jennifer Chung(GNSO)、Nicolas Caballero(GAC)——が署名した。
並行軌道:第17条・第18条の根本修正は承認行動で進んだ
同じ時期に進行していた定款第17条・第18条の根本修正(Fundamental Bylaws Amendments)は、別の軌道を辿った。NROは2026年5月11日、理事会承認に関するコミュニティ・フォーラムの通知を出し、6月12日には承認行動の決定期間に関するフォローアップ通知を出した。すなわち、根本修正は承認行動(approval action)として進み、標準修正である第27条のみが拒否手続の対象となった。両者は別個の軌道であり、別個の結果に終わった。
サイクル後の記録と、残された二つの問い
ECAの書簡保管庫には、拒否サイクル後の2026年7月3日付で、ECAからJeffrey宛の書簡が記録されている(全文は未確認である)。ここから残る問いは二つだ。第一に、なぜ根本修正ではない第27条に拒否機構が起動し、根本修正である第17条・18条は承認行動で通過したのか。軌道の選択が誰の判断によるものかは、この公開記録からは読み取れない。第二に、この不成立はエンパワード・コミュニティの支持閾値について何を示すのか。7日間の支援期間内に複数の意思決定参加者の合意を形成する難しさは、拒否権の設計そのものへの問いである。
証拠の範囲と限界
本稿の記述は、ASOとNROの公告、ECAdminメーリングリストの記録、ECAの終了認定通知PDF、ICANNの書簡類に依拠する。ただし限界がある。複数のASO/NRO公告は抜粋レベルの取得であり、ページ全文の文言は独立には確認していない。ECAdminの期限通知の正確な送信日は捕捉できていない。2026年7月3日付ECA書簡の全文も未確認である。本稿が追う対象記録のディレクトリ項目はここにある。
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