要約
- CERNのラインモードブラウザーは、NeXTのグラフィカルなブラウザー兼エディターとは別の方法で、同じWebを読めるようにした。
- 端末の要求を小さくした一方で、実際の互換性は機種別の移植、FTP配布、ソースからのビルド、継続的な保守に支えられていた。
同じWebに二つのクライアント
WorldWideWebプロジェクトの年表によると、Nicola Pellowは1990年11月にチームへ加わり、ラインモードブラウザーの開発を始めた。同年のクリスマスまでには、NeXTStep版とラインモード版の両方を実演できる状態になっていた。1991年3月には、CERNのPriam VAX、RS/6000、Sun-4で限られた利用者向けに公開された。したがってPellowのブラウザーは最初のWebブラウザーではなく、グラフィカル版を置き換えたものでもない。リンクで結ばれた同じ文書群に、別の読み方を用意した。W3Cのプロジェクト年表は時系列を記録し、Nicola Pellowの人物記録はオリジナル版の作者を彼女としている。
問題は文書にリンクを書けるかどうかではなく、閲覧ソフトがウィンドウ環境を前提としてよいのかだった。1991年2月のCERN発表は、ウィンドウを持たないコンピューター利用者を対象に掲げた。端末の機能に依存しない通常のコマンドライン操作と、番号付きリンクを採用する。別のWebを作るのではなく、リンクの選び方を変えて同じWebにつなぐ設計だった。当時の発表資料は狙いを示すが、利用者数を測った資料ではない。
リンクを番号で選ぶ
CERNの説明によれば、このブラウザーに必要な端末制御は復帰と改行だけだった。画面には文章と角括弧付きの番号が表示され、利用者が番号を入力すると次の文書へ進む。ワークステーション上の端末エミュレーターでも使えたため、対象は物理的な旧型端末だけではない。テキスト整形、メールサーバーの一部、情報検索にも利用できると説明されている。CERNのブラウザー説明は、これをプロジェクト内の複数クライアントの一つとして位置付けている。
画面への要求が低くても、接続や実行環境は必要だった。CERNの導入手順では、対象機種のバイナリーがあれば匿名FTPで取得し、なければブラウザーと共通WWWライブラリーのソースを使ってコンパイルする。機種別のディレクトリーを選び、ビルド設定を直す手順も書かれている。ポータビリティは文字出力から自然に生まれるのではなく、移植を続ける技術者の仕事だった。インストールガイドは、その作業を具体的に示す。
年表は、1991年5月にCERNの中央コンピューターでWWWが一般公開され、8月にはファイルがインターネット上へ投稿されたと記す。同年10月には匿名Telnetサービスが始まった。1992年ごろに書かれた入門ページは、当時は良いブラウザーよりFTPやTelnetを使える人のほうが多かったと説明する。これは最初の接続方法を説明した記録であって、利用者数の統計ではない。中央のCERNマシンへTelnetで接続すれば試用できたが、それはブラウザーを各自の機械に導入したこととは違う。保存された入門ページは、後年そのサービスが停止したことも記している。
対応機種が増えるほど保守も増えた
1992年1月15日に匿名FTPで公開された1.1版は、プロジェクトが初めての正式な1.xリリースと呼んだ版だ。インターネットニュース、Gopher、FTPディレクトリーの閲覧、Telnetやrloginへのリンク、その他のプロトコル用ゲートウェイが加わった。同月の更新は、複数プラットフォーム向けのソースとバイナリーの配布に加えて、SLACの全Unixシステムに導入されたと報告している。これはCERN外の具体例だが、世界全体の普及率ではない。1992年1月の更新は、機能の増加と配布方法を示す。
後の状態ページは、Unix、TCP/IPを備えたVMS、VM/CMS、適切なソケットライブラリーのあるPC、MVS、さらにはMacを対応先に挙げた。機能追加は続いていたが、基本的には安定しているとも記す。これは全機種で同じ品質が保たれていたという意味ではない。変更履歴には機種別の修正や共通ライブラリーの更新も残る。対応機種の一覧はその時点でのプロジェクトの説明であり、各環境での同等な性能や永続的な支援を保証しない。W3Cの状態記録は、日付のあるスナップショットとして読むべきだ。
保守の担い手は後に変わった。変更履歴は、1994年のバージョン3.0でCERNがWebへの直接参加を終え、ブラウザーとライブラリーの開発・保守がW3Cに移ったと記す。正式な3.1版は1995年に出た。ソフトウェアを別の機種へ運べることと、その互換性を保つ責任を次の組織へ引き継げることは別問題だ。バージョン履歴はこの移管を記録している。
ラインモードブラウザー一つがWebを広めたわけではない。端末の条件を軽くし、匿名FTP、Telnet、機種別バイナリー、移植者、共通ライブラリーの保守がその先を支えた。リンクは番号で読めても、別の機械でそのリンクを開けるかどうかは、ソフトウェアを動かし続ける人にかかっていた。
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