要約

権限の出所:どの文書が今、承認と剥奪を律するのか

新しいRIRを承認し、既存RIRを評価する権限の出所は、法的にはICP-2にあります。ICP-2は、APNIC、ARIN、RIPE NCCが関与してICANNのASOを通じて策定され、2001年6月4日にICANN理事会が「新規RIRの承認と評価に必要な本質的基本原則」として受け入れました(https://aso.icann.org/icp-2-review/)。これは理事会決定によって効力を持つ政策文書であり、条約や法令ではありません。

未批准の代替案:バージョン3の現在地

置き換え候補である「RIRガバナンス文書」は、2026年7月28日にASO ACからNRO ECへ引き渡された推奨草案(バージョン3)です。ASO ACの発表は「文書の責任はNRO ECに移行した」と記録し、NRO ECがICANNおよび各RIRと調整して最終版への道筋を進めるとします(https://aso.icann.org/aso-ac-delivers-recommended-draft-rir-governance-document-to-nro-ec/)。第2次協議要旨は、ICANNとRIRによる採択があれば本文書がICP-2を置き換えると明示します(https://www.nro.net/wp-content/uploads/ICP-2-Round-2-Consultation-Summary.pdf)。しかし工程表が示す承認・採択は2026年Q4の予定段階であり、採択手続自体がまだ定まっていません(https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/process-for-the-review-of-icp-2-and-timeline/)。

協議記録が残した構造的批判

第2次協議要旨は、提出された批判を要約しつつ、明示的に「この報告書にはNRO NCの意見や回答は含まれない」と記録しました(https://www.nro.net/wp-content/uploads/ICP-2-Round-2-Consultation-Summary.pdf)。記録された批判は五つに整理できます。

  1. 法的拘束力の不在:草案は「固有の法的拘束力を持たず、利益相反と透明性の問題があり、NROは法主体ではないため契約によってのみ有効化されうる」という指摘。
  2. メンバー定義の狭小化:「メンバー」の定義が狭められた点、および剥奪発動要件の「25%または2,000メンバー」への疑義。
  3. 高すぎる発動閾値:会員の25%という剥奪発動要件は「非常に高く、RIR会合で見られる参加水準ではない」との評価。
  4. 実施細則への後送:詳細を後回しにする「実施手続」への委ね方が、閉門的な決定のリスクを生むという懸念。
  5. 弱い執行と中間救済の不在。

バージョン3が応えた点と応えなかった点

変更理由書によれば、バージョン3は可読性(類似規定の重複への批判)、監査改革(5年周期の定期監査とコンプライアンス・レビュー)、剥奪前のリハビリテーション計画と救済機会、暫定変更の禁止(緊急継続措置中または剥奪提案係属中の修正禁止)など、協議で挙がった問題に対する応答を含みます(https://aso.icann.org/recommended-draft-rir-governance-document-rationale-report-and-next-steps/)(https://www.nro.net/wp-content/uploads/Draft-v3-Changes-and-Rationale-240826b.pdf)。

一方、草案本文自体が構造的限界を保持している箇所があります。第2.7条は「本文書のいかなる規定も、承認または剥奪の提案を評価する際のRIRやICANNによる各自コミュニティとの協議を妨げるものも義務付けるものもない」と定め、第7.1条は修正にICANNとRIRの全員一致を要求します(https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/rir-governance-document-version-3/)。協議を義務付けない規定と、実施細則が別文書とされる設計は、第2次協議で挙げられた「実施手続への後送」の懸念が草案段階では未解決であることを示しています。法的拘束力の性質について、要旨が記録した「契約によらなければ有効化されない」との批判に、草案テキストが直接応えた規定は公開記録上確認できません。

誰が異議を唱えられるのか

ICP-2の下では、新規RIRの承認判断はICANN理事会に帰属します。草案が採択された場合でも、本ガバナンス文書の修正にはICANNとRIRの全員一致が必要とされ(https://www.nro.net/policy/internet-coordination-policy-2/rir-governance-document-version-3/)、採択後の変更は事実上の拒否権構造を生みます。剥奪の承認には対象RIRを除くRIRの3分の2の支持が必要とされますが、剥奪決定自体の拘束力が契約上の関係としてどのように成立するかは、実施細則の策定待ちです。

現時点での確定事項と限界

2026年9月27日時点の公開記録が示す確定事項は次の通りです。第一に、現行の権限裏付けはICP-2である。第二に、バージョン3は引き渡された推奨草案であり、採択された文書ではない。第三に、採択段階とその後の実施手続はNRO ECとICANNが定めるものとされ、2026年Q4が予定されている。第四に、草案の構造的批判のうち、法的拘束力と実施細則の問題は、公開記録上は草案テキストの規定によって完全には応答されていない。本稿の分析はこれらの公開文書に基づき、採択手続がどのような条件で実施されるかについての推測を含みません。