要約

  • Managing Directorを業務執行理事に、現Executive Boardの選挙理事を非業務執行理事に位置付け、日常経営の責任と対応する法的責任を執行側へ移す構想である。
  • 一層制という名称だけでは、決定、委任、監督、署名、解任の主体は分からない。会員投票の前に、現行条文から改正案への権限の行き先を一行ずつ示すべきだ。

現状の追認でも、権限の根拠は変わる

RIPE NCCのExecutive Boardは第191回会合で、一層制のBoardへ進む方針を決めた。公開議事録が示す問題意識は、名称と実務のずれである。現在のExecutive Boardは日々の業務を自ら執行するのではなく、Management Teamが担う運営を監督しているという。

構想どおりなら、Managing Directorは業務執行理事となり、現在の選挙理事は非業務執行理事となる。日常経営についての第一義的責任と対応する法的責任は、現在のBoardと将来の非業務執行理事から、Management Teamと将来の業務執行理事へ正式に移る。非業務執行理事は業務執行理事を監督する。

実際に判断している者が、その判断に責任を負う。これは分かりやすい原則だ。しかし「現在の実務を定款に反映する」という説明だけでは、法的効果を測れない。誰が団体を対外的に拘束できるのか。委任を誰が取り消せるのか。執行側に必要な情報を出させる権限はどこにあるのか。慣行が条文化されると、その答えは在任者を越えて残る。

BoardはManaging Directorに改正案の作成を指示し、Boardでの審査・承認を経て、早くても2026年10月のGeneral Meetingに提出する方針を示した。5月のGeneral Meeting向けBoard報告でも案は説明され、6月の第194回会合では定款変更案が検討された。本稿の証拠確定時点で参照できる公開資料からは、最終条文が会員に採択されたとは確認できない。

一つの機関の中にも境界線は必要だ

一層制では、業務執行理事と非業務執行理事が同じBoardに属する。だが、同じ会議に座ることと、同じ権限を持つことは別である。むしろ一つの「Board」という語が複数の役割を包むため、個々の権能を明記する必要が増す。

一定額を超える契約は執行理事だけで締結できるのか。Board全体またはGeneral Meetingに留保される事項は何か。非業務執行理事は業務上の指示を直接出せるのか、それとも決議や委員会など所定の方法で介入するのか。業務執行理事の選任、停止、解任は誰が行うのか。利益相反時は投票だけでなく資料へのアクセスも制限されるのか。監督を実施した事実は何に記録されるのか。

執行側が経営責任を負っても、それに見合う裁量がなければ、責任は名目だけになる。逆に非執行側の形式的責任を狭めながら、従来の慣行で日常業務を指揮し続ければ、影の権限が生まれる。すべてを単にBoardの権能と書けば、どちらの理事が行動すべきだったかを後から特定できない。

過去の議事録は、他の地域インターネットレジストリにも一層制があると記している。参考にはなるが、同等性の証明ではない。同じ呼称でも、会員の留保権、解任手続、対外代表や責任の設計は異なり得る。判断対象はRIPE NCC自身の条文である。

改正対照表に権限の行き先を重ねる

会員向け資料には、現行定款上の重要な判断または義務ごとに一行を設け、少なくとも次を示す必要がある。

  • 現在の権限主体と改正後の権限主体
  • 執行、監督、対外代表、会員留保のいずれに当たるか
  • 委任の可否、委任先、記録方法
  • 選任、職務停止、解任を決める者
  • 定足数、議決要件、決定票の扱い
  • 利益相反、忌避、資料閲覧の制限
  • 情報請求権と報告の時期・形式
  • 監督の実施を証明する記録
  • 代表権と署名権限
  • 責任の帰属と会員が利用できる是正手段
  • 発効日時、移行中の担当者、未決事項
  • 現行条文と改正案の正確な参照箇所

これは制度を分かりやすく紹介するための補助資料ではない。統制のための文書である。会員が現行の権能を一つ選び、改正後に誰が行使し、誰が検証し、誰が覆せるかまで追跡できなければならない。

また、機関と役職者を混同してはならない。Managing Director、業務執行理事、Management Team、非業務執行理事、Board、General Meetingには、それぞれ別の意味がある。会議への参加は授権ではない。監督は執行ではない。肩書は権限条項の代わりにならない。

移行日の権限も凍結して記録する

新旧制度の境目は、明文の設計が最も途切れやすい。改正パッケージは、発効時刻、現Managing Directorの地位の転換、選挙理事の残存任期、既存の委任の存否を明示すべきだ。交渉中の契約、銀行権限、委任状、雇用判断、係争中の案件にも、切れ目のない担当主体が要る。

新制度の最初の会合では、各理事の役割、留保事項、有効な委任、署名限度、利益相反、委員会、報告日程をまとめた「権限スナップショット」を決議し、制度を始動させる決議とともに保存するとよい。後日の検証は、どの権限配置から運用が始まったかを確認できる。

会員が問われるのは、一層制という名称への賛否ではない。RIPE NCCの会社的権限を新たに配分することへの承認である。その配分は、事後の慣行から推測するのではなく、投票前の資料で読めなければならない。

出典