要約
- TDRS-1の軌道傾斜角が変わり、南極点が可視範囲に入ったことで、Amundsen–Scott South Pole Stationとニューメキシコ州White Sands Complexを結ぶ定時経路が生まれた。
- 双方向1.024 Mb/sのSバンドIP回線と、初期2〜10 Mb/sのKuバンド・ファイル転送は別の役割を担った。50 Mb/sは将来に向けた無線区間の設計容量だった。
南極点には通信手段がなかったわけではない。難しかったのは、観測データを外へ戻すことだった。以前の南極点衛星データリンク(SPSDL)は、極軌道衛星を介してAmundsen–Scott South Pole StationからMcMurdo Stationへ科学ファイルを送り、そこからさらに米国へ転送する仕組みだった。衛星と地上局が同時に見える時間は短く、NASAの1991年評価では一般に10〜15分ほどだった。NASAの後年の回顧によると、少量の地図データをMcMurdo Stationへ移すことはできたが、米国まで戻すのはほぼ不可能だった。課題は研究や計算機の不在ではなく、経路、とりわけ最後の区間にあった。
突破口は、少し風変わりな条件から生まれた。NASAの中継衛星TDRS-1は老朽化し、軌道傾斜角が変化していた。そのため南北両極を見通せるようになった。National Science Foundation (NSF)とNASAゴダード宇宙飛行センターのチームは、地上の利用者に向けて衛星を活用した。Amundsen–Scott South Pole Stationに固定アンテナを置き、TDRS-1を経由してニューメキシコ州のWhite Sands Complexにつないだのである。NASAの設置記録は、設置を1997年12月としている。NASAの後年の説明では、最初の信号は12月12日、正式運用は1998年1月9日だった。
SPTRは単一速度の回線ではなかった。NASAが1999年に出した技術解説によれば、Sバンドでは1.024 Mb/sの双方向IPサービスを提供した。衛星が見える時間帯は、南極点とWhite Sands Complexのルーター同士が通信できた。一方、Kuバンドは南極点からWhite Sands Complexへファイルを送るための別経路だった。当時のプロジェクト運用レビューは、初期のファイル転送速度を2〜10 Mb/sとしている。50 Mb/sは無線区間が最終的に目指した容量であり、当初の利用者向け速度ではない。
ファイル転送は投函箱のように動いた。研究者はまずファイルを基地のファイルサーバーにある「mailbox」へ置く。毎日のTDRSS通信機会にSPTRがその内容をWhite Sands Complexのファイルサーバーへ複製する。その後、研究者はインターネットにつながった同サーバーからFTPでコピーを取得した。24時間利用できたのは地上のサーバーであって、衛星が常に見えていたわけではない。限られた宇宙回線を研究の作業手順に変えたのは、二つのサーバーと転送時刻の設計だった。
運用計画は制約も明記していた。ネットワーク管制センターが衛星の可視時間に基づいて月次予定を作る。SPTRの優先度は、すでに軌道上にある宇宙機の支援より低い。計画担当者は毎日まとまった時間を確保しようとしたが、共有中継網で南極点が最優先になることはなかった。ファイルは利用者自身が管理し、基地運用にリアルタイム音声通信は使わない。遠隔実験の監視や大きくなったデータの回収は可能になったが、基地の孤立がなくなったわけでも、常時広帯域になったわけでもない。
歴史的な変化は、ネットワークのなかった大陸に衛星がインターネットをもたらしたことではない。すでに稼働していた研究基地に、より計画的なデータの帰路ができたことだ。この経路は一時的な軌道条件、NASAが運用する中継衛星とWhite Sands Complex設備、NSFの研究需要、そして予定に合わせて仕事を進める利用者に依存していた。1999年の遠隔医療など後年の用途は、経路がどれほど重要になったかを示すが、初期サービスの能力を語る材料とは分ける必要がある。初代SPTRは2009年に設備が更新され、SPTR-2となった。
参考資料
- NASA、SPTRの設置記録
- NASA、中継システム20年の回顧
- David J. Israel、Satellite Radio Relay Internet Link for the South Pole、NASA技術解説、1999年6月
- NASAゴダード、SPTR Project Status Review、1997年
- NASA、Antarctic Telecommunications、1991年
会員向け解説
プロフィールの詳細
適切な会員レベルでログインすると、解説全文と出典メモをご覧いただけます。
Strategic Circle 限定
Strategic Circle
すべての読者に公開されています。参加してログインすると プロフィール解説 を閲覧できます。
Strategic Circle に参加Leadership Alliance 会員限定
Leadership Alliance
対象となる IP 資産の所有者・管理者向けです。ログインすると Leadership Alliance の解説を閲覧できます。
Leadership Alliance に参加
