Summary
- 1993年のInternet Talk Radio通常番組は、録音済みの音声ファイルとして配布された。開始告知はFTPでの取得を示し、IMS自身は同サービスでMBONEを使わないと明記した。
- 制作は一か所で行い、UUNET、地域ネットワーク、EUnet、WIDE、IIJなどを通じたコピー配布を構想した。現存資料は、稼働したミラーの全一覧や通信量の実測を示していない。
- NPRとMBONEを組み合わせた生の特別番組は1993年5月の別企画だった。この試みをもって、週刊「Geek of the Week」が常時ライブ配信だったとはいえない。
最初のファイルより先に届いた告知
1993年3月22日、RIPEのメーリングリストに転送されたメッセージが、Carl Malamudの新しい計画を伝えた。Internet Talk Radioは3月31日に始まり、最初の番組としてネットワーク関係者へのインタビュー「Geek of the Week」を放送するという。現存する番組記録も、最初に掲載された回を3月31日とし、Marshall T. Roseへのインタビューを記している。話題にはOSI、X.400、IETFの運営、SNMP version 2などが含まれた。告知と番組記録は、後世の回顧ではなく開始時期に近い記録である。最も直接的な資料はRIPEリストの告知と初回の記録だ。
Malamudは「ラジオ」を比喩として説明した。最初に提供したのは、ネット向けに制作された録音ファイルである。聴き手は取得し、保存し、都合のよい時に再生できた。3月の告知は、受信側ネットワークがマルチキャストで再配布する可能性には触れたが、すぐに境界を示した。IMSはInternet Talk RadioでMBONEを使っていない。受信ネットワークがファイルをマルチキャストで中継できることと、番組そのものがライブのマルチキャストだったことは別である。
この区別を置くと、開始時の情景は変わる。全聴取者が同じ瞬間に接続する必要はなかった。録音はまず地域サーバーに置かれ、そこから個々の計算機へコピーできる。ダウンロードと再生の時刻は各人が選んだ。番組編成にはラジオの慣習を借りながら、再生の開始、停止、聞き直しは利用者に委ねられていた。
ひとつの番組、ネット上の複数経路
初回はおよそ30分を想定していた。3月の告知は、8,000サンプル/秒、8 bitのmu-lawを使う標準PCMで約15メガバイトと見積もる。MalamudのIETF発表は同じ形式を毎秒64キロビットと説明し、複数の音声形式に触れていた。一方、本人の後年の回顧では、30分の音声は30メガバイトだったという。これは同じ条件で測った数字ではない。前者は指定された符号化方式についての開始時の見積もり、後者は後年の記憶だ。全コピーのサイズを確定できる転送ログやファイル一覧は残っていないので、どちらも出典に帰属させる。
ファイルサイズがあるからこそ、配布計画は番組の一部になった。告知はUUNETを起点に地域ネットワークへ広げ、重複転送を減らす方針を示した。欧州ではEUnetのmcsunを初期のスプール地点とし、日本ではWIDEとIIJが配布に協力する予定だった。Alternetの顧客はUUNETからanonymous FTPで取得できる。地域ネットワークはプロバイダーへ、プロバイダーはIMSへ連絡するよう求められた。これは予定された運用方法であり、稼働済みミラーの検証済み一覧ではない。どのネットワークが実際にコピーを置いたか、各地点に何人の聴取者がいたか、通信量がどれほどだったかは資料から分からない。
IMSの保存アーカイブには、後の番組の姿が残る。最初の「Geek of the Week」は7つの音声部分に分けられ、.au、.gsm、.raへのリンクがある。その後も週ごとの番組が日付とゲスト名つきで並ぶ。1994年の一覧にはSteve Crocker、Radia Perlman、Scott Bradner、Tim O’Reillyら、ネットワーク研究者や技術者の名前が見える。アーカイブが保存したのは音声だけではなく、編集上の時間割でもあった。ページは目録であり、録音は対応形式を再生できる機器に取得するものだった。Geek of the Weekの索引には日付、ゲスト、形式が残る。
ファイルをネットワークが負担できる場所に置けば、ひとつの世界向けライブ配信に頼る度合いは下がる。しかし、それだけでアクセスが平等になるわけではない。毎秒64キロビットで15メガバイトを受け取るには、モデム相当の回線では数時間かかりうる。再送やプロトコルの付加分は含んでいない。番組を分割すれば、一部だけ取得したり、聴きたい区間を選んだりできるが、バイトを運ぶ費用はなくならない。近くの地域ミラーから取得すれば長距離の重複転送を減らせる可能性はあるが、資料には前後の通信量を比べる実測値がない。
「マルチキャスト」は選択肢であって受信記録ではない
IMSはInternet Multicasting Serviceの略称であり、同じ組織はライブ音声も試した。しかし、IMSの全チャンネルが同じ方法で配信されたわけではない。1993年5月の別の告知は、NPRの「Science Friday」を5月21日に録音し、5月31日に公開したと記す。この特別番組は全国ラジオの生放送とMBONEを結び、インターネット側から司会者へ質問できるようにした。告知はこれをInternet Talk RadioではなくInternet Town Hallの番組としている。保存された告知は、同期型イベントと後日の公開日を記録している。
その後のサービスにも区別は見える。IMSのアーカイブにはNational Press Clubの講演、公共政策番組、TechNation、NASA関連などが加わった。1994年のWashington Post記事には、下院・上院の音声をライブ送信しつつアーカイブも設ける計画が載る。組織が音声の用途を広げたことは示すが、「Geek of the Week」の初期配布方式を変えるものではない。当時の記録に即せば、同じ組織がファイルを公開し、特別な生放送を行い、録音を後から聴ける形で保存した、と整理できる。
告知は、転送を担うネットワークの利用規則にも配慮した。スポンサーのSun MicrosystemsとO’Reilly & Associatesには、NPR式に短く謝辞を述べるとした。Malamudは、大規模な政府ネットワークの少なくとも二つから、予定サービスはacceptable-use policyに沿うとの見解を得たと書いている。ただし、ネットワーク名も正式な承認文書も示していない。これは利用規則が実務上の論点だった証拠であり、すべてのネットワークに適用される免除の証拠ではない。IETFのスライドは、非商用の複製は制限なく認める一方、派生作品は制限する権利モデルにも触れている。技術上の複製が容易でも、個々の録音を再配布する権利には条件が残る。
配布案は普遍的なアクセスを証明しない
この試みは、ひとつの編集・制作拠点を多数の受け手候補につないだ。IMSが番組を選び制作し、地域ネットワークがプロトコル、符号化方式、ローカル保存場所を選ぶ。聴取者は取得時刻を決める。柔軟な仕組みは、コンテンツを作る側と運ぶ側の役割を分けた。しかし、関係するすべての運営者が同じサービスを承認したことも、すべての聴取者がアクセスできたことも意味しない。
Malamudは後年、1993年末までに数十か国の聴取者ができ、かなりの帯域を消費していたと回顧した。プロジェクト責任者の証言として有用だが、監査済みの視聴者数ではない。開始告知には地域の接続先が挙がるが、設置済みミラーの一覧はない。アーカイブは番組と形式リンクの存在を示すが、特定の人が特定のコピーを取得した証明にはならない。5月の特別番組は、別のMBONE利用を示す。どの記録にも、完全な聴取者数の分母はない。
Internet Talk Radioがインターネット史で重要なのは、この違いを具体的に見せるからだ。1993年の「インターネット上のラジオ」は、ひとつの信号を大勢へ一斉送信する形に限られなかった。録音をファイルに変え、帯域を提供できるネットワークが保管・中継し、聴取者が自分の時間に再生する形もあった。そこには複製、複数形式、地域協力、利用者による再生管理という利点がある。同時に、大きなファイルの転送費用、権利処理、そして予定上の配布と測定された到達範囲との隔たりも表れている。
したがって、最も堅実な歴史上の主張は限定的だ。Internet Talk Radioは、インターネット向けに作った番組を取得可能な録音として提供し、他のネットワークにも配布参加を呼びかけた。現存資料から「世界初の放送局」「普遍的な配信者」「後年の特定製品の直接の前身」と断定する必要はない。確認できるのは、当時選べた一つの方式である。ライブ信号を送るか、受け手にファイルと取得先、再生時刻を選ばせるか。その選択がサービス設計の中に置かれていた。
史料が示す境界
ここまでの区別は、当時の告知、現存する番組記録、創設者の後年の回顧、別企画のライブ配信記録で確かめられる。
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