要約

  • 海底ケーブルの更新契約や障害対応のたびに、担当者はまず文書の名義から相手を特定しようとする。ところが同じ社名が英米の二つの登記簿に別の法形式で残り、どちらが現在の応答者なのかを示す文書は、本稿が確認した範囲では見つかっていない。
  • その名義の片方は今も生きている。ARIN登録簿のSSS-10はSTC Submarine Systems, Inc.と記録され、公開形ではabuse連絡先のドメインalcatel.comだけが見え、番号資源は列挙されたどの欄にも現れない。もう片方の英国の会社登記01750343は、STC SUBMARINE SYSTEMS LIMITEDを旧名称に持ち、現在はALCATEL SUBMARINE NETWORKS UK LTDと称している。

テムズ川沿いのグリニッジ・ペニンシュラには、1857年から海底ケーブルを造ってきた工場があった。1993年、Alcatel Cableが英国のSTC Submarine Systemsを、面積34,000平方メートルのEnderby's Wharf工場ごと取得したと、ある百科事典の記述は伝える(Wikipediaの記述)。同じ記述は、この会社をSubmarine Telegraph Companyの後継会社と位置づけている。つまりこの社名は、一世紀半にわたってテムズ河畔でケーブルを作り続けた現場の仕事に連なる名であり、帳簿の上の記号ではない。

その会社の名義を今日たどる者は、書類の上で二つの登記簿の間を渡ることになる。海底ケーブルの更新契約、保守の更新、あるいは障害のあとの照会——どの場面でも、担当者はまず名義から相手を特定しようとする。英国の会社登記01750343は、STC SUBMARINE SYSTEMS LIMITEDを旧名称のひとつとして保持し、現在はALCATEL SUBMARINE NETWORKS UK LTDと称している。米国側のARIN登録簿はSSS-10の名義をSTC Submarine Systems, Inc.と記録し、公開形ではabuse連絡先のドメインalcatel.comだけが見え、番号資源は列挙されたどの欄にも現れない。二つの記録は別の法形式と別の管轄を示したままで、どちらが現在の応答者なのかを教えてくれない。確認作業は名義の先へ進めず、そこで止まる。

この停止は、抽象的な話ではない。保守契約の更新が近づいたとき、障害のあとに連絡先をたどるとき、あるいは取引先の同一性を照合するとき、担当者は限られた時間のなかで「この名義は今も有効か」を判断しなければならない。判断を誤れば、届くはずの報告は届かず、応答すべき相手を取り違える。ここで欠けているのは熱意ではなく、日付のある一枚の文書である。

英国の登記簿が語るもの

ロンドンの会社登記の検索結果は、会社番号01750343が1983年9月6日に設立され、現在の社名をALCATEL SUBMARINE NETWORKS UK LTDとし、旧名称にSTC SUBMARINE SYSTEMS LIMITED、STC COMMUNICATIONS AND INFORMATION SYSTEMS LIMITED、ALCATEL-LUCENT SUBMARINE NETWORKS LIMITED、ALCATEL SUBMARINE NETWORKS LIMITEDを並べている(Companies Houseの検索結果)。ここで確認できるのは社名の連なりだけであり、個々の変更がいつ効力を生じたかも、米国の法人との関係も示されていない。登記簿は英国の一会社という枠の内側で名義の変遷を証するが、枠の外については何も語らない。

ずれる二つの歴史記述

海底ケーブル事業の帰属をめぐる記述は、同じ年を指していない。ある百科事典の記述は、1993年にAlcatel Cableが英国のSTC Submarine Systemsを、テムズ川沿いグリニッジ・ペニンシュラのEnderby's Wharf工場(34,000平方メートル)とともに取得したとする(Wikipediaの記述)。これに対しNokiaの自社沿革は同じ取得を1994年と位置づけ、その事業がAlcatel Submarine Networksになったと記す(Nokiaの沿革)。一年の差は些細に見えるが、日付は法人の同一性をたどる手がかりそのものだ。本稿はどちらの年も採用せず、それぞれの出所に帰して併記する。2016年1月14日、NokiaはAlcatel-Lucentの買収完了を発表し、海底ケーブル事業はNokiaグループの内側に入った(Nokiaの発表)。ただしこの発表は子会社を列挙しておらず、STC Submarine Systems, Inc.にもSSS-10にも触れていない。

登録簿に残った名義

BTWがまとめた登録簿の投影では、SSS-10の組織名はSTC Submarine Systems, Inc.、別名は「Submarine Systems, Inc.」、登録管轄はUnited States、法的類型は不明と記録されている。同じ投影で、法的関係、支配関係、サービス、ネットワーク、イベントの各欄は空であり、埋まっているのは連絡先欄だけである。8件の連絡記録と2名が登録され、abuse兼primary contactの住所は公開形では伏せられ、メールドメインalcatel.comだけが見える。ASN、プリフィックス、ピアリング関係、施設の所在、IXPの所在という五つの欄はいずれも該当なしを返した。ここは正確を期したい。これはBTWが列挙した五つの欄を照合した結果であって、資源がかつて存在しなかったことの証明ではない。BTWのディレクトリではSTC Submarine Systems, Inc.として、出所の裏づけを要する項目として収録されている。

記録に答える立場にある者

この記録について、まず問われるのは登録簿を維持する主体である。ARINはSSS-10という記録がなぜ残っているのか、いつ誰がその内容を確認したのか、そして訂正や廃止の手続きを説明できる立場にある。だからといって、ARINが海底ケーブル会社の義務を承継したことにはならない。法人としての主体は未検証であり、AlcatelとNokiaの系譜は最も有力な手がかりにすぎず、確認された承継者ではない。名義が生きていることと、誰かがそれに応答できることは別問題だ。

何が判定を変えるか

判断を変える文書は四つある。第一に、米国の州の設立・合併・解散登記で、この社名を持つ法人を名指すもの。第二に、Alcatel Submarine Networks、Nokia、あるいはAlcatel-Lucentの承継体が、この登録記録への責任を認めるか否定する声明。第三に、最後に内容を確認した当事者を示すARINの検証記録。第四に、番号資源やASNがこのハンドルを離れた場合の移転記録と、その移転先である。いずれも揃っていないため、現在の答えは「名義は残り、応答者は未確定」となる。

証拠の境界

本稿の範囲では、SSS-10の登録内容そのもののテキストを取得できなかった。4回の試行はいずれも登録の詳細、法的名称、住所、日付を返しておらず、作成日、最終更新日、番地、過去の割り当ては未確定のままだ(ARINの公開ロケータ)。