要約
- Eve Schoolerが携わったMMCCと1996年の最初のSIP草案は、利用者を見つけ、セッションを説明し、参加の意思を確かめる機能を、音声や映像の転送から独立させた。
- この境界は通信を組み替え可能にした一方、到達性、本人性、参加許可、メディア保護、品質保証を別々の支配点へ分散させた。
1996年2月のInternet-Draftは、Mark HandleyとEve Schoolerの連名で「Session Invitation Protocol」と題されている。目指したのは、電話網一式の再現ではなかった。移動する利用者を現在の連絡先まで追い、どのようなセッションに招くのかを伝え、応答を受け取る。その限られた仕事を、インターネット上で相互運用できる形にすることだった。
草案では、サーバーが招待を転送したり別の場所へ向け直したりできる。依頼にはSDP形式のセッション記述が添えられる。しかし、その依頼が届いたからといって帯域が確保されるわけではない。会議で誰が発言権を持つかも決めない。招待の後に流れる音声や映像も運ばない。何を始めたいかを合意する経路と、実際の体験を運ぶ経路を重ねなかったのである。
会議全体から「招く」を取り出す
SchoolerはUSCのInformation Sciences InstituteでMMCCに取り組んでいた。公開履歴によれば、この研究は広域パケット網での多者間セッション確立、異種構成、サービス品質情報の伝達、再同期といった問題を扱った。最初のSIP草案も、SchoolerによるMMCCの成果を明記している。
そこで得た経験を丸ごと一つの標準に詰め込んだわけではない。むしろ、問題を小さく切り出した。公開されたセッションを発見して参加する場合と、特定の相手から招待を受ける場合を分け、セッション発見は会議制御モデルと直交すると記した。相手のアドレスが分かれば、セッション記述を載せた要求と応答を扱う。提示された品質をネットワークが実現できるかどうかは、別の仕組みの責任とした。
1999年のRFC 2543では、Handley、Henning Schulzrinne、Schooler、Jonathan Rosenbergが著者となり、SIPをマルチメディアセッションの生成、変更、終了を行うアプリケーション層のシグナリングとして定義した。後継のRFC 3261は、利用者の所在、在席、能力、セッション設定、セッション管理という機能を整理し、SIPは他のプロトコルと組み合わせる部品であって、垂直統合された通信システムではないと説明する。
この経緯は、一人の発明者を立てる物語には向かない。最初の草案はHandleyとSchoolerが執筆し、公開RFCにはSchulzrinneとRosenberg、さらにIETFコミュニティの仕事が加わった。Schoolerの重要性は、MMCCで見えた複雑さから「招待」という独立可能な機能を取り出した点にある。なお、後継RFC 3261の著者は別であり、そこを混同してはならない。
一つの通話に三つの流れ
基本的な手順を追うと違いが見える。発信側のユーザーエージェントがINVITEを送る。レジストラは公開アドレスと現在のコンタクト先の対応を受け付け、ロケーションサービスとプロキシが要求を届く場所へ導く。受信側が成功の最終応答を返し、ACKで最初のやり取りが完了する。単純な構成なら、プロキシはその後の活発なシグナリング経路から外れられる。音声や映像を載せたRTPパケットは、SIPメッセージとは異なる道を通ることが多い。
INVITEにSDPが入っていても、招待がメディアになるわけではない。SDPはメディア種別、転送先、パラメータを記述する形式である。オファー/アンサー方式により、両端は互いに扱える条件へ近づく。だが、音声の記述は音声ではない。リアルタイムの内容を運ぶのはRTPなどの役割だ。
つまり通話には少なくとも三つの流れがある。人やドメインへ到達するシグナリング、端末の能力をすり合わせる記述と交渉、そして中身を届けるメディアである。ダイアログの途中でも再度のINVITEで記述を変更できる。招待の有効期限が会話の長さを決めるわけでもない。状態は連動するが、同じ寿命や経路を共有しない。
この分割により、コーデックは利用者検索を作り直さずに進化できた。会議アプリは発言権や投票の仕組みを別に加えられた。資源予約が必要なら他の層で実施できた。SIPが担ったのは、必要十分な情報を渡して次の仕組みへ接続することだった。
音声を運ばなくても権力は残る
メディアを扱わない中間者にも強い権限がある。レジストラは、あるアドレスにどの端末を結び付けるかを左右する。プロキシは招待の許可、拒否、転送先を決められる。ドメインは認証を要求し、試行の記録を残せる。RTPを一つも見なくても、誰が誰に届くかを統制できる。
安全性でも境界は重要だ。SIPSは相手側ドメインまでのSIPシグナリングを保護できるが、それだけでRTPが暗号化されるわけではない。招待状を封印したことと、会話を秘密にしたことは同義ではない。
実際のサービスは、分けた経路を再び束ねることもある。セッションボーダーコントローラー、B2BUA、メディアリレー、録音装置、NAT越えの機構は、シグナリングやメディアの途中に残り得る。RFC 7092がB2BUAを分類するのは、それが単なる透明プロキシではなく、一方のダイアログを終端して別のダイアログを生成し、方針やパラメータを変えられるからだ。
したがって初期SIPの境界は、現実を単純化する断言ではなく診断の道具となる。利用者が見つかってもコーデックが合わないことがある。シグナリングが成功してもメディアが遮断される。本人確認が済んでも会話が暗号化されていない場合がある。Schoolerが関わった「会話を運ばない招待」は、通信の失敗と支配がどこで起きるのかを区別できるようにした。
出典
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