要約
- TUBAはTCP、UDPと多くのインターネットアプリケーションを維持しつつ、IPv4をCLNPと構造化されたNSAPアドレスに置き換える案だった。
- 実現にはルーターだけでなく、ホスト、DNS、IPアドレスを埋め込むアプリケーション、経路集約、CLNPを変更できる主体の合意が必要だった。
維持される層、置き換わる層
1992年6月、Ross CallonはRFC 1347でTUBAを提案した。正式名称は「TCP and UDP with Bigger Addresses」。IPv4の32ビットアドレスが将来の規模に足りなくなり、バックボーンの経路情報も急増しているという問題への長期案だった。IPv4のアドレス欄を拡張するのではなく、ネットワーク層をISOのCLNPに置き換える。TCPまたはUDPをCLNP上で動かし、IPアドレスの代わりにNSAPアドレスを使う構想である。
名称が示す通り、変えない部分もあった。自分のプロトコル内で32ビットIPアドレスを扱わないブラウザー、メール、ファイル転送などは、TCPやUDPを引き続き利用できる可能性があった。しかし下では、パケット形式、アドレス、転送が変わる。CallonがCLNPを選択肢に挙げたのは、同プロトコルがすでにデータグラム型サービスを備え、一部のインターネットのバックボーンや地域ネットワークに導入されていたためだ。既存技術を使えば、新しいネットワーク層を一から設計・実装する負担を減らせるという見立てだった。
TUBAはインターネットを全面的にOSIへ移行させる案ではない。IPだけをCLNPに置き換え、TCPとUDPは残す。1993年12月の実験RFCであるRFC 1561は、TUBA環境向けのCLNPプロファイルを定めた。CLNPとIPは同等のサービスをすべて持つわけではなく、インターネット側が前提とする情報の意味を保つ必要も記している。
経路選択はDNSとホストにも及ぶ
RFC 1347の移行像では、旧ホストと更新済みホストが共存する。更新済みホストがDNSから通常のIPアドレスを受け取れば既存の通信方式を使い、NSAPアドレスを受け取ればTCPまたはUDPをCLNPで運ぶ。DNSには新しい「long-address」レコードが必要になる。ルーターはIPとCLNPの双方を転送しなければならず、マルチプロトコル対応機器か、別々の機器群を用意する想定だった。アドレス応答でプロトコルを選ぶため、各パケットを相互変換したり、片方をもう片方にトンネルしたりする設計ではない。
段階的な導入は可能でも、依存関係は残る。TUBA対応ホストがいても、接続先ネットワークがIPのみならCLNPで到達できない。FTPやNFSの一部の使い方は、アプリケーションのデータ内にIPアドレスを含むため、TCPが継続するだけでは変更を免れない。ホスト、DNS、ルーターの各運用者に移行作業が及ぶ。NSAPアドレスが長くなっても、割り当てがネットワークの実際の構造を反映しなければ、経路を集約できるとは限らない。
TUBAの導入論拠の一つは、CLNPを転送できるルーターが既に存在することだった。1995年1月のRFC 1752が示すレビュー記録では、CLNP対応ルーターはかなり導入済みという見方があった一方、対応ホストやCLNPを運用するネットワークが十分にあったかについては意見が分かれていた。パケットを転送できる機器は価値ある基盤だが、それだけで端から端までアプリケーションが通信できる証拠にはならない。
再利用する規格の管理者
RFC 1752の評価は、CLNPのフィールド配置、ソースルート、エラーメッセージ、NSAPによる経路集約などにも懸念を挙げていた。問題を解決するにはCLNPやそのプロファイルの変更が必要になる場合がある。そこで標準管理が設計上の論点となった。IETFがCLNPの基礎仕様を変更できるのか、それともISOの手続きが必要なのか、TUBAコミュニティの見解は一致していなかった。依存する層の修正権限が曖昧なら、障害対応の速度や責任の所在にも影響する。
IPngの勧告はTUBAの貢献を消していない。複数候補の検討を経て、RFC 1752は改訂版SIPPをIPngの基礎として勧告した。同文書によれば、SIPPが基礎の多くを担い、TUBAは自動設定と移行方式に影響を与えた。CLNPは新しいインターネット層にはならなかったが、TUBAを単純な「敗れた案」と呼ぶと、後の設計に渡った要素を見落とす。
Heng Luの後年のNote:64は、当時の動機を示す史料ではなく、後から設計を考えるための視点として使える。相互運用に必要な共通ルールは何か、その後の判断を実装者に残せるか、実際の導入をどんな証拠で測るか。TUBAは、技術を再利用しても、その保守主体、端末の実装、ネットワークでの運用を別途確かめる必要があると示している。
参照資料
- RFC 1347 — TCP and UDP with Bigger Addresses (TUBA), 1992年6月
- RFC 1560 — The MultiProtocol Internet, 1993年12月
- RFC 1561 — Use of ISO CLNP in TUBA Environments, 1993年12月
- RFC 1706 — DNS NSAP Resource Records, 1994年10月
- RFC 1710 — SIPP IPng White Paper, 1994年10月
- RFC 1752 — The Recommendation for the IP Next Generation Protocol, 1995年1月
- Heng Lu, Note:64 — 後年の分析視点
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