要約
- RFC 114は、取得・保存・改名などのファイル操作と並べて、範囲を限定した
executeトランザクションを置いた。 - RFC 171とRFC 172は間もなく、共通のデータ転送機構とファイル中心のFTPアプリケーションを分けた。FTPは遠隔実行を拡張の可能性として残したが、標準手順にはしなかった。
遠隔のコンピューターからファイルを受け取ることと、そのコンピューターにプログラムを実行させることは同じではない。後者は、データの受け渡しを越えて相手側で処理を起こす。この初期のファイル転送案が問いかけたのは、アプリケーションの動作をどの層から始めるかという境界だった。
RFC 114でいう「ファイル」は、コピーする文書だけではない。ヘッダーの日付は1971年4月16日だが、RFC Editorの目録では4月1日とされている。この提案は、協調するプロセスが別ホストのファイルシステムを使うためのトランザクション方式を記した。操作には、識別・取得・保存・追加・改名・削除・オープン・クローズ・検索があり、executeも含まれていた。
これは汎用のリモートシェルではない。RFC 114が記すのは、入力を送り、サーバーホストでプログラムまたはサブルーチンを実行し、出力を返す手順だ。ただし範囲は限定され、呼び出す側のプロセスが引数と応答の取り決めを知っていることを前提としていた。プログラムファイルを介した制御された交換を描いたのであり、万能のコマンドラインやセキュリティモデルを定義したわけではない。
提案が想定した環境は具体的だが限定的だった。RFC 114によると、MITのGE 645/MulticsとPDP-10/DM/CG-ITSという2台のホストで、直ちに実装するために開発された。ハーバードのホストも候補に挙がる。機能を絞った暫定版はデバッグ中だった。これは個別の実装作業の証拠であり、列挙されたすべての操作が動いたことや、ネットワーク全体へ普及したことまでは示さない。
後続の設計文書は境界を明確にする。1971年6月付のRFC 171は、ファイル転送、遠隔ジョブ投入、メール、グラフィックス、遠隔プログラム実行など、複数の用途で共通に使うデータ転送プロトコルを提案した。転送機能をアプリケーション機能から分ければ、実装の柔軟性を高め、複雑さとプロトコルの乱立を抑えられるという設計上の主張だった。
対となるRFC 172のFTPは、共通のDTPでデータを運び、ファイル操作をアプリケーションとして定義した。ホストが一部のコマンドだけを実装することも認めている。また、遠隔プログラム実行に対応するようFTPを拡張する余地には触れたが、標準手順は提案しなかった。可能性は残ったものの、標準FTPの手順には組み込まれなかった。
この違いは重要だ。仕様の対象に操作が書かれていても、それだけで実装間にまたがる確かなサービスになるわけではない。同時期のRFC 141へのコメントは、ローカルファイルへのアクセス、コマンドの部分実装、実行ジョブの待ち時間が長くなりうる点を論じた。そこに見えるのは設計者の問いであって、利用状況の調査ではない。後年のFTP改訂は仕様の系譜を示すが、RFC 114のexecuteが一般化した証拠にはならない。
長く残った変化は概念上の分離だった。ファイルを動かす仕組みは共通化できる一方、遠隔アプリケーションがそのデータで何をするかは別の決定である。初期提案は両者を近づけて一緒に検討した。6月の文書では、再利用できる転送層と用途ごとのコマンド群がより明確に分かれた。遠隔実行は拡張の可能性として残り、FTPの標準動作とはならなかった。
ここで起きたのは仕様範囲の見直しであり、「危険な機能が広く使われて後に削除された」という経緯ではない。RFC 114が記録するのは意欲的な初期案と限定的な暫定実装、RFC 171/172が記録するのは役割分担の明確化だ。文書から分かるのは著者が何を仕様化したかであり、普及度、実運用上の安全性、各ホストの挙動までは立証できない。
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