要約
- RFC 10039は、構成されたEVPN/IPVPN相互接続でDOMAIN-IDの列を運ぶ、属性コード36のBGP optional transitive属性D-PATHを定義する。
- 自ドメインのIDが列に含まれればドメインループを検出でき、Local Preferenceの後には短い列を優先できる。ただし、その列は認証された移動履歴ではない。
- 運用上の結論には、DOMAIN-ID設定、境界での属性保存、RIB/FIB実現、テナント文脈での配送という四つの独立した証拠が要る。
ループを止めても通信は直らない
ドメインCのゲートウェイに、AとBを並べたD-PATH付きのVPN経路が届いたとする。C自身のDOMAIN-IDはない。受信側はループとは判断せず、ほかの選択条件も満たせば経路を採用する。ここまでの動作は正しい。それでも、Cに接続されたテナントのパケットが宛先に届かないことはある。
D-PATHが観測するのはBGP更新の中身であって、パケットそのものではないからだ。標準が新しく与えた可視性を正しく使うには、プロトコルの判断とサービスの結果を同じものとして扱わないことが出発点になる。
DOMAIN-IDは運用者が与える前提
D-PATHのセグメントには、相互接続サービスのアドレスファミリ種別とDOMAIN-IDの列が入る。ゲートウェイが別ドメインへ経路を広告するとき、自らのドメインを表すIDを追加する。同じゲートウェイドメインに属する装置は同じIDを使い、異なるドメインは異なるIDを使うことが求められる。
だが、DOMAIN-IDは不透明な管理値であり、自動的に組織や設備の実体へ結び付くわけではない。プロトコルは「この二台は同じドメインだ」と発見せず、「別組織だから値が重複してはならない」と調整もしない。同じドメインで値が割れればループを見逃し得る。別ドメインで値が重なれば正当な経路を拒否し得る。
したがって設定台帳、ゲートウェイの所属、実機設定の比較が第一の証拠になる。D-PATHは、その設定がBGP更新にどう現れたかを見せる第二の資料であって、台帳の正しさを認証する仕組みではない。
境界モデルが見え方を変える
D-PATHはoptional transitiveである。理解しないBGP話者を越えて伝わり得る設計だが、改変不能という意味ではない。ポリシーによる削除、実装不具合による誤符号化、境界ごとの属性処理は残る。
さらにRFC 10039は、相互接続の扱いを一様にはしていない。No Propagateのモデルでは、相手ドメインへ渡す経路にD-PATHを運ばない。Uniform Modelでは、属性を保ちながらドメイン列を連続させる。属性が見えないだけで障害と決めることも、見えるだけで保存が完全だと決めることもできない。先に境界の契約と構成を確かめる必要がある。
形式が壊れた属性にはTreat-as-withdrawが適用される。破損した情報を採用しないための重要な安全策である一方、実装差やアップグレードの不具合が大量の経路消失として表面化する可能性もある。対応機能の有無だけでなく、受信した実際の更新とwithdraw統計まで見なければならない。
D-PATHが短いことの意味
最良経路選択では、Local Preferenceの比較後にD-PATH長が評価され、ほかの条件が同じならDOMAIN-IDの少ない経路が選ばれる。D-PATHがない経路は、この比較では長さゼロとして扱われる。
ここで数えているのは宣言されたドメイン数である。物理距離、遅延、混雑、帯域、障害率を測っているわけではない。Local Preferenceが上なら、長いD-PATHを意図的に採ることもある。短い経路が選ばれても、ラベル、VNI、route target、next-hop解決、データプレーンACLのいずれかで配送は止まり得る。
だから選択ログは「なぜこの経路が勝ったか」を説明する資料であり、「サービスが成功したか」を示す試験結果ではない。
一件の障害を四段階で切り分ける
最初に、各ゲートウェイのDOMAIN-IDを収集し、同一ドメイン内の一致と異なるドメイン間の分離を確認する。移行中の新旧装置が混在する場合は、構成時点も記録する。
次に、境界の両側でBGP更新を比較する。D-PATHだけでなく、サービス種別とVPNを成立させる関連属性が期待通り維持されたかを調べる。最終的なルーティングテーブルの画面だけでは、どの境界で情報が変わったかは分からない。
三つ目に、受信経路、選択されたRIB、プログラム済みFIBを分けて確認する。next-hop、ラベル、VNI、トンネルの状態をテナント単位で突き合わせる。
最後に、当該テナントのVRFまたは同等の隔離文脈から往復試験を行う。管理ネットワークからのpingは代用にならない。戻り経路と実運用ポリシーを含む試験だけが、配送という最終命題を支えられる。
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