要約

  • RFC 1107はInternetとNational Research Networkの人名録を三段階で整備する構想を提案したが、コミュニティの確約済み研究計画ではないと明示している。
  • 先に複数方式を試し、結果を見て実装を選び、その間に展開準備を進める。記録の正確さ、名前空間の管理、アクセス権、利用者向けソフトも解くべき課題だった。

電話帳は名前を引ければ完成、というものではない。連絡先を集め、更新し、誰が閲覧や訂正をできるかを決める必要がある。RFC 1107の「White Pages」は、研究ネットワーク上で人と、その人に連絡する手段を見つけるサービスを指した。対象には電子メールボックス、カレンダー、ファイルサーバーなども含む。「Yellow Pages」は属性からネットワーク資源を探す仕組みで、目的が違う。ホスト名の仕組みに人名を付け足すだけでは済まなかった。

Karen Sollinsの「A Plan for Internet Directory Services」は1989年7月に公開され、同年2月に開かれた二日間の会合を報告している。学術、企業、政府の立場から少人数が集まり、支援と資金があれば三年でサービスを実現できる筋道に合意した。しかしRFCのステータス欄は、文書を意見募集の提案と位置づけ、インターネットコミュニティが研究活動を確約したわけではないと明記する。日程の提示から、予算承認や着手、稼働を読み取ることはできない。

技術を先に決めず、試験で比べるのが計画の要だった。X.500は表現力のあるディレクトリ意味論を持ち、国際標準になると期待されていたため最有力候補とされた。一方で仕様の空白や、単一の階層を前提にする点には懸念があった。第1段階では当時比較的準備が進んでいたQuipuなどのX.500実装に加え、ProfileとDECのDNANSを試す。Profileは階層に縛られない記述的な名前を扱い、DNANSにはアクセス制御、複製、キャッシュの設計があった。二つ目のX.500実装も加えれば、標準の問題と個別ソフトの問題を分けて検討できる。

比較の前提は、同じようなデータを各方式で扱えることだった。RFC 1107は共通の入力形式と管理ツールを提案し、複数のサービスを並べて試せるようにする。試験では、データをどう集めて直すか、どのように配布・複製するか、読み書きを誰に許すか、完全性をどう守るかを確認する。検索負荷、クライアントの操作性、複数プロトコルへの対応も対象だ。初めは課題に詳しい限定的な利用者で試し、DNANSはDECnetを使う別の環境で見る想定だった。小さな試験は学びの場になっても、全組織が将来の運用を受け入れる証拠にはならない。

数の見積もりは、試験を本番の負荷へ近づける。文書は科学・研究分野に約一千万人の利用者を想定し、一人週十回の検索から週10^8回、平均毎秒約170回、さらに高いピークを計算した。登録件数も最低10^7件を見込む。これは計画上の推計で、運用実績ではない。RFCは複数サーバーに分散する方式が妥当とし、検索コストが全体規模とともに膨らむ危険にも触れた。キャッシュやデータ配置、更新の間隔で性能は変わる。検索に成功しても、古い連絡先ばかりなら利用者は戻ってこない。

日程上は初年度が試験、二年目が実装、三年目が広域展開だったが、各段階は早く始めて並行させる構想だった。試験後に一つの方式を採用する場合も、機能を組み合わせる場合もあり得る。実装には安定したサーバーだけでなく、人間用・プログラム用の複数クライアントが要る。ところが展開の詳細は会合で決まっていない。情報収集と管理、サーバー配置、クライアントの配布・教育、運用、名前空間の各部分を誰に委ねるかが残った。

この残り方は、ディレクトリがデータベースだけでなく権限の設計でもあったことを示す。組織の名前の枝を誰が作るのか。社員情報を誰が見て、誰が誤記を直すのか。RFC 1107は、組織が名前空間の管理を他者に渡したくない場合や、個人情報へのアクセスを制限したい場合を想定していた。けれども、組織を越えて相手を見つけられなければ、広域の人名録として役に立たない。共通化と地域の裁量をどう両立させるかは、プロトコルだけでは決められなかった。

RFC 1107は三年計画の完成を証明する記録ではない。試験から実装、展開へと判断を分け、データ管理や権限も技術課題として並べた提案である。各段階に担当者、資金、評価の証拠がそろって初めて、目標年数には意味が生まれる。その後に何が実行されたかは、この文書の記述範囲外だ。

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