要約

  • デンマークのTDCループバックに向けた公開経路のうち、Cogent経由は175.604ミリ秒、NTT経由は181.747ミリ秒だった。いずれも北米を通るように見えた一方、Colt経由の対照は22ミリ秒だった。
  • その後、GTTから同じ宛先への計測はロンドンで約20ミリ秒、アムステルダムで約12ミリ秒、コペンハーゲンで2〜4ミリ秒を示した。「GTTに欧州経路がない」という最初の説明は成立しない。
  • 報告者によれば、TDCは名称非公開の英国ASとの直結経路を設け、問題を解決した。接続場所はLINXとみられるが、経路に冗長性はなく、障害時には北米迂回へ戻る可能性がある。

経路障害では、最初に見えた異常が原因のように感じられる。ルータ名に都市コードが並び、往復時間が大きく跳ねれば、どの事業者が遠回りさせたのかまで分かった気になりやすい。

2026年7月29日にRIPE Routing Working Groupへ投稿された事例も、そう始まった。Peter Kellerは、ケンブリッジの利用拠点からデンマークのTDC、AS3292に収容された宛先への通信で高い遅延が続いていると報告した。建物側が管理する接続事業者が国際上流を変更した時期と発生時期は重なっていたが、新しい供給元は確認できていなかった。

Cogentの経路表示では、ロンドンからリバプール、モントリオール、ニューヨークのGTTを経て、デンマークのTDCへ戻っていた。最終の93.178.170.33は175.604ミリ秒だった。ロンドンのルータを選んだと説明されたNTTの表示も、アッシュバーンとワシントンを経由し、181.747ミリ秒で同じアドレスに着いた。

対照となったColtの表示は違う。ロンドンでTDCへ引き渡し、表示上は3ホップ、22ミリ秒で到達した。遅い二つとの差はおよそ150ミリ秒である。

ここだけを見れば、GTTとTDCの欧州接続がなく、北米でしか引き渡せないと結論したくなる。しかし、次の計測がその筋書きを崩した。

GTTロンドンの20ミリ秒が持つ意味

参加者がGTT自身の経路確認機能から93.178.170.33を調べると、ロンドンではすぐTDCへ渡り、約20ミリ秒で到達した。アムステルダムは約12ミリ秒、コペンハーゲンは2〜4ミリ秒だった。

少なくとも試験対象アドレスについて、GTTからTDCへの欧州内経路は存在していた。したがって、遅い経路を「GTTの欧州相互接続がないため」と説明することはできない。

調査すべき対象は地理から制御へ移った。Cogentは対象プレフィックスを誰から学び、どの場所で受け取り、なぜその経路を選んだのか。短い経路が存在することと、特定のネットワークがそれを学習して利用できることは別である。

ファイバの地図に両社の拠点が描かれていても、対象経路を交換するBGPセッションがあるとは限らない。同じIXに参加していても、必要なプレフィックスが相手に広告されるとは限らない。インターネットは地理的な最短線ではなく、受信し、受理し、優先した広告の上を流れる。

93.178.170.33は業務サービスの公開先ではない

公開された比較計測は93.178.170.33を目標にしている。逆引き名ではTDCのループバックであり、RIPEstatは現在、このアドレスをAS3292が起点となる93.178.128.0/18に対応付けている。AS3292の登録名はTDC Holdingである。

投稿は実際に遅延を感じたアプリケーションのアドレスを開示していない。このため、93.178.170.33はTDCへの経路を比較するためのネットワーク上の目標であり、利用者のサービス宛先と書くべきではない。

計測の向きにも限界がある。一方向のtracerouteから戻りの経路を確定することはできない。アプリケーションのプロトコルや、体感遅延のどちらの向きが支配的だったかも公開資料にはない。

さらに、ルータの逆引き名は運用者が付けた手掛かりであり、物理所在地の証明ではない。RIPE Atlasの地域メッシュ文書も、逆引きDNSやIP位置情報による地域判定は誤ることがあると注意している。本件では都市名とRTTの増加が整合し、Coltの対照もある。だから北米迂回の疑いは強い。ただし、各ラベルを座標として断定する必要はない。

証拠が支えるのは、二つの観測経路が同じネットワーク目標への欧州内経路より大幅に遅かった、という範囲である。

BGP表示が選択された広告を示した

別の参加者は、ドイツにあるCogentの経路表示から93.178.128.0/18を調べた結果を投稿した。表示されたASパスは3257 3292 3292 3292 3292である。CogentはGTTのAS3257を通じてプレフィックスを学び、TDCのAS3292は複数回プリペンドされていた。カナダのネクストホップとコミュニティ174:22003も記録されていた。

この出力だけでは契約条件や意図は分からない。それでも、遅延が偶然の地理現象ではなく、Cogentが受信して選んだ広告と結び付くことは分かる。問題は、他にどの広告が届かなかったか、短い欧州経路に必要なピアリングがどこで欠けたか、という形になった。

9月4日、KellerはTDCのピアリング担当者と技術者に相談した結果を共有した。彼の説明によると、名称の明かされていない英国ASは、ほかに三つのトランジットを利用できるにもかかわらず、該当プレフィックスをCogentだけに広告していた。一方、Cogentは欧州でTDCとピアリングしなかった。

この組み合わせなら、短い経路が技術的に存在していても選択肢にならない。四社のトランジット契約は、プレフィックスが四社へ広告されて初めて経路多様性になる。請求書上の複数調達と、制御面の冗長性は同じではない。

公開記録にはCogentやTDCによる共同の障害報告も、英国ASの設定もない。したがって、この説明は「TDCとの協議後にKellerが報告した診断」として扱うべきである。参加者は費用が広告制限の理由かもしれないとも述べたが、金銭的動機を裏付ける資料はない。

正常時を直し、障害時を残した

Kellerによれば、TDCは英国ASとの直結経路を手配し、問題は解消した。9月7日の追記では、両ネットワークがLondon Internet Exchangeに参加しているため、接続はLINXで行われたようだと説明された。ただし、公開されたセッション情報や設定はなく、場所は報告に基づく推定にとどまる。

この修復は実務的である。関係する二つのネットワークが直接制御でき、Cogent全体のピアリング方針が変わるのを待つ必要がない。短い経路を迅速に作れる。

同時に、Kellerは直結が非冗長だと明記した。障害が起きれば、通信は一時的に北米経由へ戻る可能性がある。

つまり古い経路は消えず、バックアップの位置へ下がっただけである。平常時のグラフは改善する。直結セッション、ポート、回線、広告のいずれかが失われた時にだけ、予備経路の品質が表に出る。

この状態では、「インターネット接続は継続する」と「サービス品質を維持する」は別の判断になる。北米経由でもパケットは届くかもしれない。しかし150ミリ秒の増加を許容できないアプリケーションにとっては、到達可能性が残るだけでは十分ではない。

修復記録には撤回時の結果が要る

障害を閉じるための記録は四点でよい。第一に、英国側の正確なプレフィックスと、実際に広告している上流の一覧。第二に、直結セッションの場所、責任者、受理する経路。第三に、同じポートや回線、同じポリシー障害を共有しない独立した欧州の予備。第四に、影響を受けた両端から実施する主経路あり・なしの双方向計測である。

直結を意図的に撤回した時、ASパスとRTTがどう変わるかを残す。176〜182ミリ秒へ戻るなら、旧状態が実効的な予備であることが確認できる。別の欧州経路が引き継ぐなら、初めて冗長性を実証できる。

この手順はtracerouteを絶対視するためではない。証拠を役割ごとに分けるためにある。ホップとRTTは症状、BGP表示は選ばれた広告、輸出方針は変更権限、撤回試験は修復の耐久性を示す。

RIPEの公開議論では、原因の説明が一段ずつ改善された。残っているのは、直結がなくなった日の実測だけだ。

証拠の範囲

遅延値と経路出力は参加者が投稿した測定である。最終診断と解決の報告はKellerがTDCとの協議後に説明したもので、各通信事業者が独立に公表した事後報告ではない。RIPEstatは現在のプレフィックスとASの対応を確認するが、2026年7月の全経路状態を再現するものではない。

出典