要約
- 1991年のBARRNetは1,816件の外部経路を記録した。初期のOSPF運用では、NSFNET向け通信の余分な中継と、小型ルーターのメモリー不足が明らかになった。
- RFCはこの二つの制約をOSPFv2の転送アドレスとスタブエリアに結び付けている。これは具体的な運用事例であり、プロトコル改定全体の唯一の理由ではない。
1990年4月、北カリフォルニアの研究ネットワークBARRNetはOSPF Version 1を運用に投入した。同年11月にはVersion 2を使っていた。翌年7月にJohn Moyがまとめた報告は、単に初期導入例として紹介したのではない。ある経路で不要な中継が発生し、外部から届くすべての経路を保存するにはメモリーが足りないルーターがあった。報告は、この二つの制約をOSPFv2に加わった二つの機能の理由として挙げている。実際の通信と機器から不足が見え、プロトコル設計者に具体的な課題を渡した点が、この記録の強みだ。 RFC 1246 §§6.0, 6.2.1–6.2.2
BARRNetは一つの大学キャンパスだけを結ぶネットワークではなかった。1991年の報告によると、サクラメントからモントレーまで約80の会員サイトに接続し、速度は9.6 kbpsからT1まで幅があった。会員には大学、政府機関、企業が含まれる。スタンフォードではT1とT3の双方でNSFNETに接続し、Lawrence LivermoreのESnet、NASA AmesのFederal Internet Exchangeを介したDDN、カリフォルニア州内の大学ネットワークとも相互接続していた。地域内の通信を運びながら、複数の大規模ネットワークと経路情報を交換する必要があった。 RFC 1246 §6.2
中核は14台のProteonルーターで、そのうち6台が冗長なリングを構成し、コア拠点はフルT1回線で結ばれていた。会員サイトはコアの先に接続し、多くはスタンフォードを中心とするスター型だった。外部ゲートウェイと実際に通信を処理するルーターが、同じ地域網の別の位置にあったことが重要になる。報告は当時、OSPFに1,816件の外部経路が存在したと記す。大半はNSFNET由来で、ほかにNSN、別プロトコルを話すBARRNetルーター、ESnetからの経路があった。RIPやEGPの経路をOSPFへ取り込み、Type 1の外部メトリックを使い、ルートタグでEGPへの再広告を制御した。OSPFが従来の経路交換を置き換えたのではなく、既存の仕組みと共存した。 RFC 1246 §§6.2.1–6.2.2
1990年のネットワークディレクトリも、BARRNetを専用回線やマイクロ波、さまざまな拠点接続から成る地域網として記している。後年のInternet2による回顧は、ルーターの所有と保守を会員大学が分担する、分散度の高い運営形態だったと説明する。これらは共有のルーティングシステムと個々の機器の所有・保守責任を区別する材料になるが、その運営形態が余分な中継やメモリー不足を招いたとは示していない。RFC 1245はOSPFの相互運用試験を、RFC 1131は最初のVersion 1仕様を記録しており、標準文書、実装、現場経験は並行して育っていた。The User’s Directory of Computer Networks(1990);Internet2の回顧;RFC 1245;RFC 1131
最初の問題はネットワーク境界で起きた。EGP情報をNSSと交換していたのはBR5とBR6だけだった。OSPF外部リンク状態広告に独立した転送アドレスがなければ、BR10、BR16、BR28が扱うNSFNET向け通信は、実際の外部次ホップへ直接到達できる場合でも、まず経路広告元のゲートウェイを経由していた。ルーターを一台余計に通る。OSPFv2の転送アドレスは、広告に宛先ごとの次ルーターを記せるため、内部ルーターは直接経路を選べた。標準仕様の説明は一般例を使うが、Moyの現場報告は同じ挙動をBARRNetのルーター名に結び付けている。資料は「NSS」の意味を展開していないので、略称をそのまま残す。 RFC 1246 §6.2.2;RFC 1247 §§2.2, 12.4.4
二つ目はメモリーの制約だった。一部ルーターでは全外部経路を保持できなかった。BARRNetは四つのスタブエリアを使い、それぞれは内部にOSPFルーターを持たない単一LANだった。スタブエリアには外部広告が流れず、ルーターが保持する情報量を減らせる。報告はこれを、メモリーが足りない機器でOSPFを動かすための試みと記す。あらゆる小型機器で動くという保証ではない。メモリー容量や導入前後の測定値も示されていない。外部経路を完全には見られない代わりに、各エリアが負担するルーティング状態を小さくした。 RFC 1246 §§6.2.1–6.2.2;RFC 1247 §3.6
Moyの報告ではBARRNetは複数の初期導入例の一つだ。同じ一覧にはNASA Science InternetとOARnetもあり、OSPFのインターネット導入自体は1990年春に始まっている。最初の導入でプロトコルのバグは見つからなかったが、望ましい機能が判明した。BARRNetについて言えることは「最初だった」という主張より具体的だ。報告が、余分な中継とメモリー不足をVersion 2の二機能に結び付けている。RFC 1247によればVersion 1と2は相互運用できず、バージョン変更には運用上の境界もあった。報告にはBARRNetの利用開始月はあるが、各ルーターをどう移行したか、一斉に変更したかを示す記録はない。 RFC 1246 §§6.0, 6.2.2;RFC 1247 Appendix F
この証拠の範囲を守れば、歴史を誇張せずに読める。仕様書はルーターの動作を定めるが、実網はモデルのどこで中継が増えるか、あるいは機器のメモリー以上の状態が必要になるかを示す。記録は、BARRNetの構成やOSPFがインターネットの問題を単独で解いたとは述べていない。示したのは、現場の経路を次ホップまで伝え、資源の限られたエリアが外部経路を減らして扱えるようにする、二つの具体的な設計課題だった。
参考資料
- John Moy、RFC 1246(1991)「Experience with the OSPF Protocol」 §§6.0–6.2.2。
- John Moy、RFC 1131(1989)「The OSPF Specification」。
- John Moy、RFC 1247(1991)「OSPF Version 2」 §§2.2、3.6、12.4.4、付録F。
- John Moyほか、RFC 1245(1991)「OSPF Protocol Analysis」。
- The User’s Directory of Computer Networks(1990)「BARRNet」。
- Internet2「The Strategic Future of the Mid-Level Networks」歴史的回顧。
会員向け解説
プロフィールの詳細
適切な会員レベルでログインすると、解説全文と出典メモをご覧いただけます。
Strategic Circle 限定
Strategic Circle
すべての読者に公開されています。参加してログインすると プロフィール解説 を閲覧できます。
Strategic Circle に参加Leadership Alliance 会員限定
Leadership Alliance
対象となる IP 資産の所有者・管理者向けです。ログインすると Leadership Alliance の解説を閲覧できます。
Leadership Alliance に参加
