要約

  • RFC 9973は、TLS 1.3において証明書認証を残したまま、選択した外部PSKと(EC)DHE共有秘密を鍵スケジュールへ入れる。
  • identityの選択とbinderの検証は、当該ハンドシェイクで同じ鍵値を対応付けたことを示す。鍵の発行者、保管者、独占性、接続後の権限は示さない。
  • 監査は秘密の生成から、配布、端末保管、交渉、証明書検証、アプリケーション判断、確定、実測結果までを別々の証拠として結ばなければならない。

新しい計測機器を企業網へ入れる場面を考える。最初から利用者アカウントを与える前に、機器が公開鍵と製造時の秘密を持っている。接続担当は「証明書とPSKを両方使った」と報告するだろう。だが保安担当が知るべきなのは、その二つがあることではなく、どちらがどの決定を担い、誰がその決定を後から検証できるかである。

RFC 9973は2026年7月のIETF Standards Track文書で、実験的なRFC 8773を置き換えた。tls_cert_with_extern_pskにより、TLS 1.3の鍵スケジュールは選択した外部PSKと(EC)DHE秘密の双方を用いる。一方、サーバー認証、必要ならクライアント認証は、証明書公開鍵で検証できる署名に依存し続ける。以前のTLS接続から生じたresumption PSKと、別の経路で準備されたexternal PSKは区別される。

クライアントはこの拡張をkey_share、supported_groups、psk_key_exchange_modes、pre_shared_keyとともに出す。early_dataとの併用は許されない。初回接続にはpsk_dhe_keが必要で、提示するPSKは外部PSKだけでなければならない。サーバーが返信に拡張を入れるのは、提示された外部PSKの一つを受け入れ、同時に証明書認証を行う場合だけである。IANAの登録にある番号33は名称空間の共有であり、実装や採用の証明ではない。

binder が閉じる範囲

ServerHelloのselected_identityは、クライアントが示したリストの位置を指す。binderは外部PSKから導く鍵と部分的なhandshake transcriptに基づくHMAC値である。検証は、両端がその位置に同じ値を対応付けたことを示す。これは配送記録でも、鍵の出所証明でも、端末の所有権でもない。複数の委託先、バックアップ、旧端末が同じPSKを保持していないという主張にもならない。

RFC 9973は生成、配布、管理を意図的に仕様外に置く。ただし将来の暗号攻撃に対する機密性の説明は、PSKの機密性、エントロピー、真正性に依存する。安全な鍵管理技術と十分な長さを要求し、弱い疑似乱数生成は探索範囲を小さくし得ると警告する。RFC 4086は乱数の考え方を与えるが、特定の製造工程の品質を証明しない。

重要なのは、PSKが証明書認証を置き換えない点である。外部PSKだけを認証の根拠にしてはならず、Certificate と CertificateVerify の役割は残る。このため、外部PSKが会話の秘密性に別の条件を加えることと、将来の量子計算に対して署名認証まで自動的に安全になることを混同できない。RFC 9958が扱うのも、この条件付きの脅威モデルである。

PSKを再利用すると、監査の意味も変わる。一回限りで二者だけが知る秘密と、複数セッションやグループで使う秘密には同じ分離性がない。さらにPSK identityは平文のClientHelloに載るため、接続を関連付ける目印になり得る。identityのローテーションやEncrypted Client Helloは対策候補だが、誰がいつどの用途でidentityを交換するかを決めるのは運用者である。

実行された経路を残す

鍵管理側は、秘密の用途、生成・導出の種別、許可された相手集合、TLSバージョンとハッシュ、配布経路、保管者、ローテーションと破棄条件を残す。秘密そのものを運用ログに増やす必要はない。TLS側は、拡張のofferとaccept、秘密を露出しない相関情報、psk_dhe_ke、証明書方針の結果、Finishedまたはalertを記録する。アプリケーション側は、なぜその相手に入会、閲覧、更新、指令の権利があったか、どの鮮度条件で確定したか、外部から結果を観測できたかを別に残す。

Heng LuのRunning Code Primacyは「設定済み」を結果と取り違えないよう求める。ここでは、対応可能というカタログ、鍵が存在するという台帳、証明書があるという画面のどれも、実際に選択され検証され権限判断につながった経路の代わりにはならない。最小の共通仕様が残したローカル判断には、ローカルの説明責任が伴う。

出典