要約

  • RFC 10080は、X.400から変換されたメールに限られていたExpiresフィールドを、一般のインターネットメールに広げた。
  • メールソフトはこのフィールドだけを理由に受信を拒否・破棄できない。削除を決めるのは受信箱の持ち主だ。

送信者はメールに日付を付け、「この時点で有効性を失う」と示せるようになった。自動消滅のタイマーに見える。ところが削除キーは受信側に残る。

変更そのものは小さいが、権限の境界ははっきりしている。RFC 4021はメールのExpiresフィールドを登録しつつ、RFC 2156が定めたX.400変換の用途に限っていた。RFC 10080はこれをインターネットメール全般に広げる。販売期限付きの案内、イベント告知、定期通知に、作成者が考える失効日時を付けられる。

送信者が含められるExpiresフィールドは一つだけだ。規格は日時の構文を定めるが、時刻を過ぎた後の一律の動作は指定しない。メールサービスやメールソフトは、一覧での優先度を下げたり、非表示にしたり、期限切れメールの扱いを利用者に選ばせたりできる。

ここが肝心だ。送信者が提示するのは有効性についての主張で、表示と保存をどうするかは受信側が選ぶ。RFC 10080は、Expiresフィールドだけを根拠にメールを拒否・破棄することを禁じている。また、受信箱の持ち主が明示的に設定しない限り、期限切れメールを削除しないよう求める。注意を向ける材料にはなるが、ごみ箱の鍵にはならない。

メールは記録でもある。キャンペーンの期限が過ぎても、何を約束したか、いつ送ったか、顧客に何を求めたかを示す証拠として残ることがある。その判断を、日付を書いた販促担当者ではなく、受信者とその設定に委ねるのが規格の線引きだ。

規格は悪用も挙げる。送信者は過去でも遠い未来でも好きな日付を設定できる。迷惑メールの送信者がすでに期限切れと記せば、読まれず報告もされないと期待できる。近い未来の日付で行動を急がせ、あとで見つけにくくする手口もあり得る。だから期限は、受信側が表示方針を決めるための入力であって、内容の真偽を保証する判定ではない。

このフィールドには、X.400とインターネットメールの変換、IANAへの登録、Netnewsの似たExpiresフィールドという経緯がある。Netnewsでは投稿者の関連性判断を示し、削除までは義務付けなかった。RFC 10080は考え方を電子メールに広げながら、受信側の管理権を明記した。

メールサービスが問うべきなのは、日付が過ぎたかだけではない。受信箱の持ち主がどの動作を許可したかだ。目立たなくしても記録を残すなら整理に役立つ。送信者の期限を初期設定の削除命令にすれば、他人の保存方針を送信者に書かせることになる。

出典:RFC 10080、RFC 4021、RFC 2156、RFC 5536、IANAメッセージヘッダー登録簿。