要約
- NETSCOUTの1,286%という数字は、2026年上期に1 Tbpsまたは1 Gppsのいずれかを超えた攻撃1,095件と、2025年上期の79件を比べたものだ。公表された算術は一致するが、特定の閾値を超えた攻撃数の比較に限られる。
- この数値から、通信量、被害者、サービス停止、防御費用、セキュリティ市場の売上が同じ割合で伸びたとは言えない。ビットレートとパケットレートは異なる負荷を測るが、公開資料では一つの総数にまとめられている。
- 2026年1〜6月の全攻撃数について、報告ページは「910万件超」、公式インフォグラフィックは9,146,021件、Global Highlightsのライブページは4,267,744件と表示する。公開ページには差を説明する記述がない。
1,286%が測るのは、選ばれた閾値を超えた件数
計算は明快だ。(1,095 − 79) ÷ 79 × 100は約1,286%になる。新しい期間の件数は前年同期のおよそ13.9倍だ。ただし、比較対象はNETSCOUTが設定した二つの高容量閾値を超えた攻撃に限られる。DDoS攻撃全体が約14倍になったことや、どの通信事業者も同じ状況にあることを意味しない。
分母の小ささも見る必要がある。前年の79件は限られた件数なので、数十件の増加でも比率は大きく動く。1,095件という観測自体は無視できないが、この伸び率を業界全体のリスク係数にすることはできない。
二つの閾値は別の負荷を表す。1 Tbpsは単位時間あたりに流れるデータ量、1 Gppsは1秒間に処理するパケット数だ。小さなパケットが大量に来る場合と、帯域を大きく消費する場合では、設備にかかる圧力が異なる。インフォグラフィックはどちらかの基準を超えた攻撃を合算するが、帯域だけ、パケットレートだけ、両方を超えた攻撃の内訳を示していない。二つを超えた同一攻撃をどう扱うかも公開資料からは分からない。
2026年上期は181日間なので、単純平均では1日約6.0件、前年同期は約0.44件となる。これは期間合計を日数で割っただけで、日々の発生状況ではない。特定の日に集中したか、複数の攻撃が同時だったか、特定の顧客ネットワークを通過したかは判断できない。
閾値超過とサービス障害は別の指標
高容量の攻撃でも既存の防御で吸収されることはある。逆に、二つの閾値に届かなくても、接続状態やアプリケーションの処理能力を圧迫してサービスが止まる場合がある。NETSCOUTの報告ページも、リンクが飽和する前にサービスが影響を受ける可能性や、複数の宛先に分散した通信がホスト単位の検知閾値をすり抜ける可能性を挙げている。これはピーク帯域だけを見てはいけない理由であって、1,095件が1,095件の障害を生んだ証拠ではない。
同ページによれば、2026年上期の観測攻撃のうち直接型が64.40%を占め、1分以下の攻撃の割合は2025年下期の1.6%から2026年上期の3.1%に上昇した。ただし、どちらも1,095件だけに絞った数値ではない。高容量攻撃がすべて短時間または直接型だったとは言えない。
報告書は、通信事業者向けにネットワーク境界での専用緩和能力、選択的な対処、同時攻撃に備えた余力を推奨し、オンプレミス防御とクラウド型緩和を補完策として説明する。検討に値する設計案だが、NETSCOUTは脅威情報とDDoS防御の販売企業でもある。商業上の立場は評価の背景として示すべきだが、それだけで測定値が誤りだと結論づける理由にはならない。
インフォグラフィックには、攻撃代行サービスの月額価格帯が無料から5桁までと示され、「攻撃は量ではなく提供内容で売られる」とある。これは同社のグラフィック上の説明であり、実際の取引、代表的な料金プラン、契約条件の調査ではない。防御サービスの価格も掲載されていないため、セキュリティ企業の売上機会を算出する材料にはならない。
設備調達には自社網の測定が必要
通信事業者が最初に確認すべきなのは、トラフィックがどこから入り、各回線の先にどのサービスがあるかだ。対象となるネットワーク境界の帯域余力に加え、緩和経路が毎秒何個のパケットを検査・フィルタリングできるかを把握する必要がある。正常な通信をどれだけ返せるのか、上流やクラウドの代替経路がどの程度の超過分を吸収するのか、その経路へ何分で切り替えられるのかも重要だ。
装置の公称容量だけでは構成を決められない。常時稼働する境界防御で局所的に処理できる攻撃もあれば、分散攻撃や自社の余力を超える通信をクラウド側に迂回させる必要もある。両者を組み合わせれば選択肢は増えるが、統合、試験、運用連携の負担も増す。妥当な構成はネットワークの形、顧客向けSLA、許容遅延、同時需要、既存設備、誤検知のコストで変わる。NETSCOUTの世界合計は、特定の購入者の条件を表していない。
調達判断に必要なのは結果に近い指標だ。検知と緩和に要した時間、正常な通信の遮断量、複数攻撃時のサービス維持、契約上の確約容量、超過料金、事後報告の品質を確認したい。契約には、誰が正常化した通信を届けるか、どの容量と応答時間を保証するか、超過分をどう請求するかを明記する。これらが分からないままでは、閾値超過件数の増加は見直しの理由にはなっても、予算額には換算できない。
全攻撃数の表示には未解決の差がある
1,095件と79件の比較は、全攻撃数の食い違いとは別に評価できる。NETSCOUTの報告ページは2026年上期にATLASが910万件超を記録したとし、インフォグラフィックは9,146,021件と記す。一方、同じ1〜6月を掲げるGlobal Highlightsページには4,267,744件と、過去6か月比14.13%の変化が表示されている。公開資料には数字の違いを説明する記述がない。
丸め誤差では片付かない差だ。定義、対象範囲、更新時点、集計方法の違いは考えられるが、公開情報はどれも確認していない。根拠なく総数を一つ選び、全体の増減を計算するべきではない。この不一致は期間比較の定義を確認する必要性を高めるが、別途明示された1,095件の閾値超過数を自動的に否定するものではない。
市場の観点で言えることは、見出しより限定的だ。NETSCOUTの観測では、2026年上期に高容量閾値を超えた攻撃が前年同期より増えた。運用者は自社の構成を試すきっかけにできる。しかし、被害、調達、業界収益の伸びを示すには、個別事故、防御結果、契約、価格、各社の売上といった別の証拠が必要だ。
公開資料
- NETSCOUTのissue 17報告ページには対象期間、1,286%の閾値比較、攻撃ベクトルと継続時間、同社の緩和策の提案がある。
- issue 17公式インフォグラフィックは1,095件、比較対象の79件、二つの閾値、9,146,021件の総数を掲載する。
- NETSCOUT Global Highlightsは2026年1〜6月の攻撃数を4,267,744件と表示するが、報告ページやインフォグラフィックとの整合を説明していない。
- NETSCOUT 2025年下期レポートは攻撃継続時間の比較基準を示すが、高容量攻撃群を個別には集計していない。
- NETSCOUT 2025年上期レポートは前年同期比較の背景資料であり、購入者の成果や市場支出を示すものではない。
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