要約

  • John S. Quartermanは、異種ネットワークを一つの絵に押し込めるのではなく、メール、対話型サービス、ホスト、地理、遅延という観測対象を分けることで比較可能にした。
  • Matrix Mapsの信頼性は完全性ではなく、測定地点、時間窓、収集方法と見えない領域を結論のそばに残した点にある。

1990年代前半、Internetの成長は専門家の端末から投資家や行政の会議室へ移りつつあった。そこで必要とされたのはプロトコルの説明だけではない。昨日より大きくなったのか、どこまで広がったのか、誰が利用できるのかを一目で理解できる表現だった。地図と成長曲線は、その要求に強く応えた。

しかし、広がりを描くには外縁が要る。当時のオンライン世界にはTCP/IPのInternetだけでなく、BITNET、UUCP、FidoNet、商用メール網などがあった。ゲートウェイを介して電子メールを交換できても、同じ対話型サービスを使えるとは限らない。通信できることと、同じネットワークに属することは別だった。

Quartermanの1990年の著書 The Matrix: Computer Networks and Conferencing Systems Worldwide は、この不揃いな世界を対象にした。RFC 1175の同時代の書誌は、同書を746ページ、地域別構成で、地図、ネットワークとゲートウェイ、アドレス表記、プロトコル、参加方法を含む資料として紹介している。これは単純な接続図ではなく、異なる仕組みの間を実際に渡るための地図帳だった。

「Matrix」は、電子メールを交換できる世界全体を指すために使われた。Internetはその内側にあるが、Matrixのすべてではない。メールという最小共通サービスを境界にすれば大きな集合ができる。WWW、FTP、TELNETのような対話型IPサービスを求めれば集合は小さくなる。利用者を数えたいのか、情報を提供できる機器を数えたいのかでも答えは変わる。

QuartermanとSmoot Carl-Mitchellが1996年に発表したRFC 1935は、この違いを測定の言葉にした。文書はInformational/Legacyであり、IETF標準ではない。そこで示されたのは、対話型サービスを提供できるコア、ファイアウォールの内側を含む利用者側Internet、そしてメール到達可能なMatrixという入れ子の区分だった。著者自身が、区分は目的に応じた選択であることを隠していない。

同RFCに出てくる1992年のロシアの例は鮮明だ。ロシアのネットワークはCommercial Internet Exchangeなどから到達できた一方、一定期間NSFNETからは到達できなかった。NSFNETを基準にすれば地図の外に見え、別のネットワークからは中に見える。どちらか一方が嘘なのではない。観測地点が異なるのである。

したがって、「接続済み」「到達可能」という語だけでは測定仕様にならない。どこから、いつ、どのサービスで到達できたのかが必要だ。メールを受け取る機器が対話型接続を許すとは限らない。ファイアウォール内の端末は情報を取得できても公開できない。一つの名前が一台の物理機器や一人の利用者を意味するとも限らない。

Quartermanが設立したMatrix Information and Directory Services(MIDS)は、こうした定義を地図とグラフに変えた。Matrix Mapsの意義は、複雑さを消したことではなく、複数の尺度に分解したことにある。ホスト総数、Webサーバー、増加率、人口当たりの密度、都市別分布、応答遅延は、同じ現象の別々の面を示す。

Carl-Mitchell、Gretchen Phillipsと共同で発表したINET’94論文は、測定器の内部を見せている。約4,500ドメイン、そのうち欧州の1,428ドメインを一日六回探査した。掲載された欧州地図は、1993年12月から1994年3月までの18回の水曜日を用いた。ネットワークへの負荷を避けるため探査を分散したので、図示時刻と実際の送信時刻には最大二時間の差があり得た。

この条件を知れば、地図の読み方が変わる。MIDSの地点から得た往復時間は、選んだ相手との時系列パターンを示す。混雑の場所を単独で特定せず、欧州全利用者の体感も表さず、原因となる事業者も決めない。応答なしは障害だけでなく、フィルタリング、経路、名前情報、終端の設定でも起こる。色は大陸の属性ではなく、位置を持つ観測の結果だ。

1996年のラテンアメリカ・カリブ地域向けMIDS資料は、Webサーバー数、ホスト総数、年間増加、人口当たり、都市別という地図を使い分けた。位置情報については地域レジストリや参加者の協力も求めている。国別コードのドメイン名は命名上の所属を示しても、サーバーの物理的な所在を保証しないからだ。

総数は人口の大きい国を目立たせ、人口比は浸透度を見せる。増加率は小さな基盤の加速を拾い、Webサーバー数は特定サービスを切り出す。遅延は一つの始点から一つの時刻に見えた経路の性質を含む。指標を重ねる意味は「完全なInternet」を作ることではなく、一つの尺度が全体を名乗るのを防ぐことにある。

可視化は技術の外でも作用した。Internet Hall of Fameは、1994年のMatrix Mapsの成長グラフがJeff Bezosの目に留まったという人物史を紹介する。これは、グラフがAmazonを生んだという因果証明ではない。それでも、分散した技術変化が時系列になると、事業機会として比較できる対象になることを示す逸話ではある。

その影響力が、方法を隠す誘惑も生む。ホスト数を利用者数として宣伝し、ccTLDを所在地として集計し、成功した探査だけで平均を作れば、数字は見栄えを増す。注記を失った図だけが流通すると、部分的な観測が世界全体の事実に化ける。

Internet Domain Surveyの後史は、この危険を具体化する。ISCによれば、初期手法はDNSのゾーンデータをたどったが、ゾーン転送を拒む組織が増えると観測範囲が狭まった。後継手法は委任済みアドレス空間の逆引きを調べ、以前とは異なる対象を数えた。仮想ホスト、別名、逆引き未登録も「ホスト」の意味を揺らした。

ISCは2019年、IPv4だけの調査がIPv6や私設ネットワークによる成長を捉えられず、Internet全体の指標として誤解を招くとして終了した。優れた測定にも有効期限がある。過去を守る方法は、同じ曲線を無理に延ばすことではなく、手法の断絶と終了理由を記録することだ。

Quartermanの仕事を貫くのは、見えない部分を消去しない姿勢である。中心のないネットワークを社会が理解できる形にしながら、参加、到達、提供、消費を同義語にしなかった。地図製作者の権威は全知からではなく、選択した境界を説明できることから生まれる。

現在のダッシュボードはリアルタイムでも、この課題から自由ではない。センサーの配置、見えるインターフェース、顧客の定義、サンプリング、保存期間が先に世界を切り取る。信頼すべき単位は大きな数ではなく、数と範囲の組み合わせだ。Internetを描く前に、どのInternetを描いたのかを言えること。それがQuartermanの地図から残る基準である。

出典