要約

項目 内容
対象 Gartner(ガートナー)の世界AI支出予測系列
中心的事実 2025年基数が1年で1兆4,786億→1兆7,649億→1兆7,866億ドルへ3回改定
2026年予測 2兆6,704億6,000万ドル(+49.5%)、AIインフラ1兆4,843億9,700万ドルが最大セグメント
実装側の証拠 米国発表241GWのうち約33%が開発中、発表→実現転換率40〜54%、接続待ち最大2,290GW
不確実性 改定の内訳(定義変更 vs 実支出)は非公開、転換率推計は監査されていない

予測自身が数えるもの 三回の改定と分類の再定義

2025年9月の最初の枠組み

2025年9月17日の発表は、世界AI支出を2025年に1兆4,786億3,400万ドル(2024年の9,879億400万ドルから)、2026年に2兆226億4,200万ドルと予測した。九つの下位市場に分かれ、GenAIスマートフォン(2,981億8,900万ドル)とAIサービス(2,825億5,600万ドル)が最大で、GenAIモデルはわずか142億ドルだった。https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2025-09-17-gartner-says-worldwide-ai-spending-will-total-1-point-5-trillion-in-2025

重要なのは、買主がAI機能を選ばない場合でも消費者機器に組み込まれたAIを「支出」として計上する点である。これはヘッドラインの何が買主の需要で、何が機器の埋め込み価値かを区別する読者側の作業を要求する。https://www.networkworld.com/article/4058786/gartner-ai-spending-to-reach-1-5-trillion-dollars-this-year.html https://www.cryptopolitan.com/global-ai-spending-1-5-trillion-in-2025/

2026年5月と9月の改定

2026年5月19日の改定は、同じ2025年を1兆7,649億4,700万ドルへ引き上げ、2026年を+47%の2兆5,956億6,700万ドル、2027年を3兆4,933億5,800万ドルと予測した。分類はAIサイバーセキュリティ、AIモデル、AIプラットフォーム、AIデータ、AIインフラへと組み替えられ、インフラが総支出の45%超を占めた。https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-05-19-gartner-forecasts-worldwide-ai-spending-to-grow-47-percent-in-2026

2026年9月16日の再改定は、2025年をさらに1兆7,866億7,100万ドルへ引き上げ、2026年を+49.5%の2兆6,704億6,000万ドル、2027年を3兆6,372億9,200万ドルとした。AIインフラは1兆4,843億9,700万ドルで最大セグメントとなり、GenAIモデルの成長率は110%から117%へ上方修正された。https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-09-16-gartner-forecasts-worldwide-ai-spending-to-grow-49-point-5-percent-in-2026

二次報道の集計では、AIインフラは2026年AI支出の約56%を占め、ガートナーは2026年1月から9月の間に予測を約1,430億ドル引き上げたが、その増分の約83%がインフラ由来とされる。GenAIモデル支出1ドルあたり52ドル超がAIインフラに投じられる計算になる。https://campustechnology.com/articles/2026/09/21/infrastructure-accounts-for-more-than-half-of-worldwide-ai-spending.aspx

改定が示すものと示さないもの

ガートナーは約3,090億ドルに及ぶ2025年改定を、定義変更と実際の支出増長に分解して公表していない。分類が二度変わった以上、基数の上昇がどこまで実需要で、どこまで計測枠の拡大かは予測の外側からは検証できない。これは予測の誤りではなく、予測を読む側が直面する構造的な不確実性である。

予測の前提を物理証拠で試す

容量 帳簿上と実際の差

Wood Mackenzieによれば、米国の開示済みデータセンタープロジェクトパイプラインは2024年末の93GWから2025年末に241GWへ急拡大したが、約33%しか活発な開発段階にない。建設・電力供給契約は183GW(2025年米国ピーク負荷の約22%)に達し、ERCOTとPJMが大口負荷コミットメントの72%を保有する。2025年第四四半期の新規追加は25GWで、第三四半期の半分に減速した。https://www.woodmac.com/press-releases/newly-added-us-data-center-capacity-slows-down-considerably-in-q4-2025-as-market-struggles-to-keep-up-with-explosive-demand/

Janus Hendersonの259プロジェクト・157.4GW名目容量の「容量帳簿」は、2030年までに実現可能なのは約84.7GW、転換率約54%と推計する。根拠は複数年に及ぶ変圧器の調達期間、燃料・水の許認可、電気技師・EPCの処理能力上限である。https://www.janushenderson.com/en-ch/advisor/article/data-center-power-why-the-key-risk-is-under-delivery-not-overbuild/

Sightline Climateの独立帳簿は、2030年までに発表された102.3GW(710プロジェクト)のうち、デリスク基準を満たすのは40.8GW、約60%が重大な遅延・中止リスクに直面すると推計する。2026年プロジェクトの30〜50%が電力制約、機器不足、地域の反対で遅れ得る。https://stackfutures.com/blog/ai-datacenter-capacity-gap-sightline-2026/

送電網 接続が律速段階

米国エネルギー省LBNLの『Queued Up 2025』は、約2,290GWの発電・蓄電が送電網接続を求めていると記録する。2000〜2019年に接続を申請したプロジェクトで2024年末までに商用運転に達したのは容量にして約13%であり、2024年プロジェクトの申請から運転までの期間中央値は55か月(2015年は36か月)だった。https://emp.lbl.gov/sites/default/files/2025-12/Queued%20Up%202025%20Edition%20-%2012.15.2025.pdf

デロイトの調査では、電力・データセンター幹部の72%が送電網容量を「非常に・極めて困難」と評価し、接続待ちは最大7年に達する。米国AIデータセンター電力需要は2024年の4GWから2035年には123GWへ30倍に増え得るとする。https://www.deloitte.com/us/en/insights/industry/power-and-utilities/data-center-infrastructure-artificial-intelligence.html

ロイターが主要13米国電力の決算説明を調べた結果、約半数が自社のピーク需要や既存発電を上回るデータセンター電力申請を受け、テキサスのOncor(Sempra傘下)はピーク利用の約4倍にあたる追加119GWの接続申請を受けた。https://www.reuters.com/business/energy/us-utilities-grapple-with-big-techs-massive-power-demands-data-centers-2025-04-07/

計算資源 売り切れた供給

NvidiaのCFO Colette Kressは「クラウドは売り切れており、当社の設置済みGPU基数は完全に稼働している」と述べた。ガートナーのアナリストGaurav Guptaは、最先端ウェハー、先進パッケージング、HBMに加え、熱管理・液冷・サーバーラックの未認識ボトルネックを供給不足の候補として挙げる。ブログレベルの報告はデータセンターGPUの調達期間36〜52週、2026年半ばまで売り切れの約360万台のバックログを挙げるが、権威は低い。https://www.networkworld.com/article/4094308/nvidia-chips-sold-out-cut-back-on-ai-plans-or-look-elsewhere-2.html https://blog.imseankim.com/ai-chip-shortage-september-2025-nvidia-blackwell-supply-update/

推論への移行がインフラ前提を締め上げる

ガートナーは2026年にAI最適化IaaS支出が96%増えると別途予測し、アナリストのJohn-David LovelockはAIデータセンター建設を「人類が手がけた最大のインフラプロジェクト」で、メモリー価格上昇圧力に対して非弾力的な需要だと述べた。https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-08-10-gartner-forecasts-worldwide-artificial-intelligence-optimized-iaas-spending-to-grow-96-percent-in-2026 https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-09-16-gartner-forecasts-worldwide-ai-spending-to-grow-49-point-5-percent-in-2026

一方、推論は2026年にAI最適化IaaS支出の約55%、2027年に59%を占めるとされ、Futurumは2030年にAIプラットフォームインフラ支出の71.7%に達すると推計する。デロイトのTMT予測とマッキンゼーのハイパースケーラー戦略分析は、訓練から推論へのワークロード移行という同じ構造を描く。推論は訓練より低い単一ジョブ密度で恒常的に走るため、電力密度と立地の要件が変わり、送電網・冷却・立地の制約と別の形で衝突する。https://www.deloitte.com/us/en/insights/industry/technology/technology-media-and-telecom-predictions/2026/compute-power-ai.html https://www.mckinsey.com/industries/technology-media-and-telecommunications/our-insights/the-next-big-shifts-in-ai-workloads-and-hyperscaler-strategies https://futurumgroup.com/press-release/inference-climbs-to-71-7-of-ai-platforms-infrastructure-spend-by-2030/

構造的な帰結はこうなる。2026年のAIインフラ支出1兆4,843億9,700万ドルは、契約・発注・コミットメントとして計上され得るが、それが購入する物理計算は、発表→実現転換率40〜54%と55か月の接続期間が示す通り、当年に稼働するとは限らない。支出予測と収益を生む稼働容量のあいだに、時間的な溝が開く。

文脈を固定する分母

ガートナーの2025年1月発表は、2025年の総IT支出を5兆6,200億ドル(+9.8%)、うちデータセンターシステムを約4,055億ドル(+23.2%)と予測しており、AI予測の相対規模を読む分母を与える。https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2025-01-21-gartner-forecasts-worldwide-it-spending-to-grow-9-point-8-percent-in-2025 2025年3月のGenAI支出予測(2025年に6,440億ドル、+76.4%)は総AI支出より狭い範囲であり、142億ドルの「GenAIモデル」行と混同しやすい。https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2025-03-31-gartner-forecasts-worldwide-genai-spending-to-reach-644-billion-in-2025

帰結と不確実性

実装証拠が予測の支出線と乖離する場合、最初に調整されるのは予測の時間軸であり、方向ではない可能性が高い。需要意図の記録と物理的稼働の差は、インフラ支出が帳簿上は実現し続けながら、電力・機器・送電網の制約が計算能力の供給を後ろへ滑らせる形で現れる。

ただし不確実性は残る。転換率推計はJanus HendersonとSightline Climateの独自手法に基づき、独立監査されていない。GPU調達期間とバックログの数値は一部ブログレベルである。ガートナーの改定内訳は非公開で、予測と実装の溝が今後の改定にどう反映されるかは観察の対象であり続ける。

参照