要約

  • RFC 9716 は Reply Path TLV を SR-MPLS 向けに拡張し、IP の戻り経路がなくても複数 IGP ドメイン/AS を越える応答を可能にする。
  • 戻りスタックは head-end が明示する場合と、ABR/ASBR がローカル方針に基づいて追加・変換する場合がある。完成したスタックには複数の判断主体がいる。
  • 要求経路、境界での変更、FEC 検証、返答コード、実際の受信、顧客サービス結果を分離して保存すべきである。

帰ってきたパケットに残る境界の判断

LSP traceroute が IGP 境界を越え、遠隔 AS のルータに到達する。応答も発信元に戻る。画面には成功と表示される。しかし、その戻り道は自動的な逆走路ではない。ある ABR は自分のノードラベルを先頭に置き、ASBR は Node-SID と逆方向 EPE-SID を加えた。別の境界は、自身の SRGB でノードアドレスをラベルに変換したかもしれない。そして、方針によって参加を拒否する権限も持つ。

RFC 9716 は 2025 年 2 月に IETF Standards Track として公開された。従来の LSP ping/traceroute は結果を IP で返すことが多いが、複数 AS/IGP ドメインの内部ルータが発信元への IP ルートを持つとは限らない。全ルータ向けの GRE トンネルや静的ルートは重い。そこで同 RFC は、既存の Reply Path TLV に SR の逆経路を載せ、転送中のノードには通常の MPLS 転送だけを求める。

対象は単一組織または密接に協力する管理主体のドメインである。SRv6、IPv4 専用域と IPv6 専用域をまたぐエンドツーエンド OAM は範囲外だ。標準であることはプロトコル上の合意を示すが、導入、相互運用性、障害復旧、顧客 SLA の実績を示さない。

実行可能なラベル列にも作成者がいる

RFC 7110 の Reply Mode 5 は「指定経路で応答」を要求する。RFC 9716 は Type-A(MPLS ラベル)、Type-C(IPv4 ノードアドレスと任意 SID)、Type-D(IPv6 版)を定めた。要求は Mode 5 と順序付き Reply Path TLV を含み、応答側はその順で MPLS スタックを作る。勝手な追加ラベルは許されない。

ただし、セグメント種別はローカル方針で決まる。受信側が一部フィールドを上書きすることもある。コントローラが完全な戻りスタックを与えるなら、監査記録にはコントローラ、LSDB/トポロジー版、アルゴリズム、運用入力、構築時刻が必要だ。TLV の存在だけでは選択理由を復元できない。

前向き FEC 検証は別の権限を持つ。RFC 9716 は RFC 8029 と RFC 8287 の検証手順を変えない。FEC 結果はデータプレーンとコントロールプレーンの対応を調べ、Reply Path は結果の運搬経路を作る。応答受信から前向き検証の正しさを逆算してはならない。

traceroute は進みながら帰路を組み立てる

head-end が遠隔ドメインの全 LSDB を見られない場合、境界ルータが帰路を増分構築できる。ABR は自分のノードラベルを既存セグメントの前に置く。ASBR は Node-SID と、要求が来た AS へ向く EPE-SID を加える。コード 0x0006 は、発信元に「次の TTL の要求で、この返却 TLV を使え」と伝える。

SRGB が統一されていない場合、Type-C/D のノードアドレスを境界自身の SRGB で Type-A ラベルへ変換する必要がある。下流が外部 SRGB を知るとは限らないからだ。完成した帰路は一つの中央命令というより、各ドメインの知識と選択を積み重ねた記録になる。

拒否も正規の結果である。動的構築を許さない境界は 0x0007 を返せる。運用者は明示経路を指定するか、別の SR Policy 検証を選ぶ。拒否を単なる失敗として消すと、誰の方針がどの診断範囲を止めたのか分からなくなる。

返答がない場合も原因は一つではない。トップラベルが LFIB で到達不能、エラーを返す IP 経路がない、デフォルトルートへ送った応答が途中で消える、といった分岐がある。タイムアウトは証拠の終点であって、根本原因の名前ではない。

実務上は、要求の handle・sequence・TTL・FEC・前向きスタック、戻り経路案、各境界の追加/SRGB 変換/インターフェース選択、FEC と Reply Path の処理結果、実際に受信した応答、そして別途測定した顧客サービスを結合する。一回の Echo Reply が証明できるのは、その瞬間の限定された交換である。別の本番スタック、未観測 ECMP 分岐、将来の状態、容量、アプリケーションまで広げてはならない。

セキュリティも権限設計の一部だ。RFC 9716 は内部情報共有を許容できる管理関係を前提にしつつ、攻撃者が診断を内部情報抽出に使う危険を認める。送信元に基づくエッジフィルタを必須とし、脆弱なドメイン間リンクで MACsec を推奨する。誰が診断を開始し、結果を閲覧し、どれだけ保持できるかが運用契約になる。

情報源

一次資料:RFC 9716、RFC Editor 記録、IETF Datatracker。機構の背景:RFC 7110、RFC 8029、RFC 8287、RFC 9256、RFC 8402、RFC 8660、IANA MPLS LSP Ping Parameters。