要約

  • 2026年5月3日、ICANN理事会はSFICRの対象を理事会承認済みのコミュニティ勧告の実施から「あらゆる適格プロジェクト」へ広げ、名称をProject Fundに変更し、資金適格性の規則を策定するようPresident and CEOまたは被指名者に指示した。
  • 最終的な支出権限は移っていない。基金への移転と個別利用には引き続き理事会承認が必要で、支出はICANNの財務報告に反映される。
  • 5月28日、BFCはFY26の営業余剰を1,800万~2,100万米ドルと予測し、Project Fundを行き先の候補として議論した。正式な勧告は年度末締めと監査の後であり、議事録は移転額、採択案件、契約、支出を証明しない。
  • 公開すべきなのは、規則の版、案件の事実、通常予算外とする理由、意見募集、移転決議、利用決議、支出、成果、終了をつないだ一件ごとの受領証である。予測、移転、利用許可、実績は互いに継承されない。

稟議書の最後の空欄

2021年に設けられたSFICR は入口が狭かった。理事会が承認した、または近く承認するコミュニティ勧告の実施であり、規模、複雑さ、複数年度性のため年間予算に収まらない案件を想定していた。理事会は設立時に1,500万米ドルの移転も承認した。

この仕組みでも、勧告があるだけで個別支出が自動承認されたわけではない。しかし案件の起点は見えた。コミュニティの提案、理事会による勧告承認、実施案件、資金利用を順にたどれたからである。

2026年5月3日の決議 はその起点を広げた。建物改修、技術インフラ、セキュリティ、設備更新など、内部で把握された大規模案件も対象になり得る。年次サイクルで扱いにくい投資に柔軟性を持たせること自体には合理性がある。

ただし、理事会が対象範囲を「あらゆる適格プロジェクト」に変えた一方、適格性を決める規則はPresident and CEOまたは被指名者が後に策定することになった。基金の器が先に広がり、案件を通常予算から例外の器へ移す判定表は未完成のまま残った。

三つの決議を一つに畳まない

同日の決議は役割が違う。2026.05.03.01は用途の範囲を拡張した。2026.05.03.02は名称をProject Fundに変え、資格規則の策定を命じた。2026.05.03.03はInvestment Policyを改め、Reserve Fundの水準を調整した。理事会議事録 は、この措置自体に即時の財務影響がないとも記す。

Reserve Fundの最低水準は予算上の営業費12か月分のまま、目標は16か月、上限は21か月となった。Operating Fundの最低水準も3か月分のままである。境界を超えた余剰が自動的にProject Fundへ流れる設計ではない。

基金への各移転と各利用には理事会承認が残る。支出は財務報告に載る。経営側が資格規則を作り、候補案件を準備しても、それは送金命令ではない。BFCの検討も最終承認ではない。権限の所在を守るには、それぞれの行為を別の状態として保存する必要がある。

「あらゆる適格プロジェクト」は「あらゆるプロジェクト」と同義でもない。適格という限定語に、使命との関係、年間計画外とする理由、規模や期間、代替案、終了後の継続費用をどの程度要求するかが、制度の実体になる。

余剰見通しは送金記録ではない

5月28日のBFC議事録 では、FY26の営業余剰が1,800万~2,100万米ドルになるとの予測が説明された。資金収入は主にドメイン名市場の活動が想定を上回ったことで予算を超え、費用は概ね予算内だった。

Operating FundとReserve Fundは最低水準を上回り、Reserve Fundは目標をわずかに上回っていた。そこでProject Fundが余剰の潜在的な配分先として挙がり、技術近代化が適格になり得る仕事の例として語られた。

ここで名詞が近接していても、決定が連結されたわけではない。予測額は監査済み余剰ではない。Project Fundという候補は配分決定ではない。技術近代化という例は特定案件の採択ではない。議事録は、年度締めと監査後に正式勧告を行い、理事会承認を得るという順序を明記している。

過去には移転が明確な決議として残っている。2025年10月、理事会はFY25のOperating Fund余剰から1,200万米ドルをSFICR/Project Fundへ移すことを 承認した。この記録は移転という行為の形式を示すが、FY26について同じ行為が済んだことにはならない。

意見募集が与えたのは条件である

ICANNは2025年12月の 基金変更案 で用途拡大を公表し、FY27計画・予算の意見募集に含めた。2026年4月2日のサマリーレポート は、趣旨への理解だけでなく、透明性、定義、監督、内部発案の扱いに関する問いを記録している。

ICANNは想定する特徴として、年間オペレーティングプラン外、規模と費用が大きい、複数年度にわたる、という三点を示した。これは後の規則を読むための基準にはなる。しかし5月3日に改めて策定を命じられた正式な資格規則そのものではない。

ccNSO SOPC はプロジェクト定義と予算監督を問い、ALAC は仕組みの明確化を求め、Alfredo Calderon-Serrano は資格、監督、透明性を問題にした。これらを「コミュニティが支持した」の一文に縮めれば、支持に付いた条件が消える。

反対に、意見募集は拒否権ではない。理事会は支出判断の責任を負い、人気のない技術案件を承認することも、支持の多い案を退けることもできる。必要なのは、意見がどこで考慮され、何を変え、何を変えなかったかを理由付きで残すことである。

例外基金と通常予算の境界

通常予算は、支出を許すだけでなく、組織全体の優先順位を同じ分母で比べる場でもある。予見可能な仕事や反復する費用が次々とProject Fundへ移ると、個別案件はすべて理事会承認済みでも、年間予算は恒常的な負担の全体像を失う。

資格規則には出口が要る。建設やシステム更新の期間は例外資金で扱えても、導入後の人員、保守、クラウド、ライセンス、セキュリティ運用は継続費用になる。いつ基本予算へ戻すのか、戻さない場合に誰が例外継続を承認するのかを、案件開始時から示すべきだ。

案件の由来も消してはならない。コミュニティ勧告から来た案件と、経営側が見つけた施設・技術上の必要は、ともに正当になり得る。ただし前者の委任を後者へコピーしてはいけない。基金拡大への意見募集は、将来の個別案件への包括的なコミュニティ承認ではない。

3月31日のBFC議事録 は、Project Fundの利用が引き続き理事会承認を必要とし、公開コメントの機会を含むオペレーティングプランと予算プロセスに反映されると説明した。実務上の試金石は、名の付いた案件が決定前にそのプロセスへ現れるかどうかである。

版を固定した案件別受領証

資格規則には識別子、版、発効日、承認権者が必要である。候補案件には公開責任者、使命との結び付き、通常予算外とする理由、範囲、費用帯、期間、成果物、代替案を付ける。どの要件をどの証拠で満たしたかも読めなければならない。

案件がコミュニティ勧告由来か、内部発案か、混合かを明記する。意見募集の経路、期間、重要な意見、その処理を保存する。BFC勧告、資金源から基金への移転、個別案件への利用承認は、たとえ同じ会議で扱われても別の行為として参照できるようにする。

実施後は、承認額、引き出し、マイルストーン、変更承認、実績支出、残高をつなぐ。終了時には成果、未達、余剰金の扱い、訂正履歴を残す。安全情報や個人情報、交渉中の価格は保護できるが、権限、理由、金額、状態まで非公開にする必要はない。

この受領証の核心は、ある状態から次の状態を推測させないことにある。適格判定は資金移転ではない。移転は利用承認ではない。利用承認は契約締結ではない。支出は成果達成ではない。

確認できたこと、できないこと

調査した公開記録から確認できるのは、ICANNが基金の用途を広げ、名称を変え、Reserve Fundの目標と上限を改め、資格規則の策定を命じたことである。理事会は各移転と各利用の承認権を維持し、支出は財務報告の対象である。

また、経営側が1,800万~2,100万米ドルのFY26営業余剰を予測し、Project Fundを候補として議論したことも確認できる。しかし最終監査額、具体的な移転、技術近代化案件の承認、契約、支出は確認できない。

公開されていないからといって内部規則が存在しないとも断定できない。不正利用、隠蔽、悪意の証拠もない。問うべきなのは、拡張後の最初の利用より前に、適用規則と案件別の根拠を外部から再構成できるかである。

Heng Luのインターネットガバナンスにおけるエージェンシー問題の分析 は、この問いを権限、誘因、責任、救済の連結として捉える手掛かりになる。ただし同論考は、ICANNがこの基金を誤用したという事実資料ではない。

出典